file-148 落語は新潟で楽しもう!(後編)

  

新潟でカジュアルに楽しめる落語

 昭和45年(1970)発足、50年以上の歴史を持つ新潟大学落語研究部のメンバーを始め、本業は学生や農家、エンターテイナー、元・警察官など、新潟には落語を聴くだけでなく演じる人々が大勢います。一門に属さない、彼らアマチュア落語家に落語の魅力について聞きました。

新潟らしさがあふれる落語

落語で大学と地域を結ぶ

求亭巨だち

佐藤良太郎さん(遊求亭巨だち)。令和3年(2021)、地域の自治会からの依頼で落語を披露。

なにわ亭こ粋

佐野璃菜さん(なにわ亭こ粋)。令和元年(2019)、内野まちづくりセンターで開催された口演の様子。

 大学のサークル活動としての落語研究部、いわゆる落研(おちけん)が生まれたのは、ラジオで落語ブームが起きた1950年代と言われています。新潟では、昭和45年(1970)に新潟大学の落語研究部が発足し、51年にわたり活動してきました。北陸・東北地方では歴史も規模もトップクラスです。「遊求亭巨だち」(ゆうきゅうてい こだち)こと佐藤良太郎さん、「なにわ亭こ粋」(なにわてい こいき)こと佐野璃菜さんに活動について聞きました。
 「部員は40名。男子が多いと思われがちですが、3年生は10人中7人が女性です。落語については、動画サイトを参考にしたり、先輩に教えてもらったりしながら覚えていきます。古典を現代風にアレンジして行うことが多いですが、創作する人もいます」と佐野さん。発表の場は多く、新人がデビューする「フレッシュ&フレッシュ」、「名人会」、新潟駅南口の大学サテライト施設での「ときめいと寄席」、東北大・東北学院大・秋田大との4大学合同落語会「奥羽越学生落語会」、新大祭、さらに地域の催しなど、月に一度のペースで落語を披露しています。

 

チラシ各種

口演チラシは毎回、部員がデザイン・制作を担当しています。

 では、その魅力とは? 「落語を聴いているとき、一人ひとり頭の中に微妙に違う絵が浮かんでいるはずなのに、みんなが同じところで笑ったり、泣いたりする。6歳も80歳も同じように。そこがおもしろいです」と佐藤さん。「高座では誰も助けてくれません。でも、つっかえたときには、登場人物の一人に『何をもごもごしてるんだ!』と言わせたら何とかなるし、かえって盛り上がることも。アレンジや工夫ができるところも魅力です」と佐野さん。大学と地域の人々の架け橋になるべく、次の高座に向けて準備を重ねています。

 

演じて教えて、落語一筋

艶笑さん

水都家艶笑さん。自らも楽しんでいる様子が伝わる笑顔ですね。

 亀田(現・新潟市江南区)生まれ・育ちの水都家艶笑(みなとや えんしょう)さんは、定期的に口演を行い、NHK新潟放送でレギュラーコーナーを持っていたこともあるので、落語家が本職と思っている人も少なくありませんが、いわゆる一門に属する落語家ではありません。「プロじゃないし、営業もしていたからアマチュアとも言いにくいし、自分では『道楽』と言っています」と、艶笑さんは笑顔を見せます。
 高校で自ら落研を立ち上げて以来、落語一筋。落語会(後に新潟落語会と改称)を結成し、地元のラジオやテレビ、イベント、研修会など様々な場で口演を行ってきました。平成12年(2000)には文化庁主催「国民文化祭広島2000」全国落語競演会で優勝した実力派です。「子育て中に経験したPTAの話をマクラにいれたところ、それが受けましてね。持ち時間の15分のうち半分以上はやったかも。無理してかっちりとやっても人を楽しませられません。話す方が力を抜かないとと気づいた、その成果かもしれません」

 

思い出のFAX

「これは、国民文化祭の優勝の際に頂いたFAXを印刷して額装したものです。初めて、さん喬師匠が『艶笑』と呼びかけてくださり、感動したのを覚えています」/水都家艶笑さん

ほのぼの寄席

「ほのぼの寄席」の詳細は艶笑さんのホームページからご覧いただけます。

 多くのプロの落語家の新潟口演で前座を務めたり、自身の25周年、30周年には敬愛する柳家さん喬(さんきょう)さんを招くなどプロとの交流もさかん。また、「落語は話術の原点だから」と、新潟のお笑い集団・NAMARAのメンバーに指導したことも。現在は、一般の人に落語を教える講座も開催しています。
「生徒の最高齢は91歳。その人が忘れて覚えてを繰り返しながらも、楽しそうに演じていると見ている側も喜ぶ。こうした人柄が伝わる芸がお客様を喜ばせます。登場人物や流れがちょっとくらい変わってもいいんですよ。そういう自由なところを持っているのも落語の魅力ではないでしょうか」。月1回開催の「ほのぼの寄席」は、今、老舗蕎麦屋に場を移して継続中。江戸前の蕎麦と落語の粋なコラボは新潟市民に愛され、20年目を迎えています。

 

ほっこり温かな落語イベント

しんこ屋寄席の様子

入場料はワンドリンク付きで500円。まさしく気軽に落語を楽しめる場所です。

落語研究会新潟県央
落語研究会新潟県央

上から、田辺晃一さん(世久利亭応契)と、樋浦重一さん(運転し亭越後屋)。

 新潟には、落語に関わり、盛り上げている人がまだまだいます。
 艶笑さん主催の新潟落語会には、元・警察官の落語家・三流亭楽々(さんりゅうてい らくらく)さんも所属。経験を活かし、防犯活動をテーマにした「笑って楽しい防犯落語・交通安全落語」を創作し、「ほのぼの寄席」に毎回出演するほか、地域の集会やイベントで楽しくてためになる落語を披露しています。
 新潟のお笑い集団・NAMARAでも寄席がスタートしています。メンバーの一人、春巻まさしさんが㐂八家五円(きはちや ごえん)として落語を身に付け、毎月「しんこ屋寄席」を開催。NAMARAのメンバーだけでなく、遊求亭巨だち、なにわ亭こ粋を始めとする新大落研のメンバー、三流亭楽々さんたちも参加し、にぎやかに笑いを届けています。
 また、新潟県央地域には、平成27年(2015)に落語研究会新潟県央が生まれています。世久利亭応契(せきゅりてい おうけい)こと田辺晃一さんと、運転し亭越後屋(うんてんしてぇ えちごや)こと樋浦重一さんは、新大落研出身の社会人。「卒業後も落語を続けられる枠組みを作りたい」という気持ちで立ち上げました。客層や会場の雰囲気を考慮して演目を決めることもあるそうで、「そういうライブ感も楽しんでもらえたら」と、年に一度の自主公演に加え、県内の落語会やイベントに活躍の場を広げています。

 

 親子や夫婦、近所の人たちとのドタバタやほろりとくる人情話など、落語のネタは幅広く、登場人物も実に多彩で、今に通じる悩みや感動もきっとあるはず。さらに、身近な新潟の話題が加わったり、新潟のイントネーションで語られると、温かさもひときわ。酒が体を温めるように、人の情け(なさけ)が心をじんわり温めてくれそうです。

 

ではここで、謎かけをひとつ。落語と掛けて越後と解く、その心は、どちらも「さけ」がうまい。

 

艶笑さん

 

掲載日:2021/10/11

 


■ 取材協力
水都家艶笑さん/新潟落語会 会長
佐藤良太郎さん(遊求亭巨だち)/新潟大学落語研究部 部長
佐野璃菜さん(なにわ亭こ粋)/新潟大学落語研究部 副部長
新潟のお笑い集団・NAMARA
落語研究会新潟県央

 

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