file-154 新潟はビールもすごい!(後編)

  

今、新潟でしか味わえないビール

 小規模な醸造所、ブルワリーで職人が作るクラフトビール。新潟では、日本酒と同じ仕込み水や米麴、新潟産の米や農産物、フルーツなどを使った、「今」「ここ」でしか出会えないビールが次々と誕生。多種多様なビールを飲み比べる楽しみが多くの人を惹き付けています。

クラフトビールは立ち止まらない

小ロットに込めた大きなこだわり

醸造所外観

「弥彦ブリュ―イング」は彌彦神社の近くで50年にわたり酒屋を営んできた「酒屋やよい」が立ち上げた新事業。本店を改装して、醸造所とタップルームを造った。

 ビール造りに必要なのは、麦芽・ホップ・酵母・水の4つの原料。これらの組み合わせ方によっても味わいは大きく変わるのですが、ここにフルーツやハーブなどの副原料を足すと味や香りの幅がさらに広がり、新しい個性が生まれます。そこに挑戦し、個性あふれる数々のビールを造りだしているのは、令和元年(2019)に醸造を開始した「弥彦ブリューイング」です。ビールを味わえるタップルームを併設した醸造所は、その名前の通り、彌彦神社一の鳥居から徒歩約3分の好立地。代表の羽生雅克さんにビールの特徴について伺いました。

 

仕込み風景

「弥彦ブリュ―イング」は石見式醸造方法を採用。「ステンレスの立派なタンクではなく、ホームセンターで見かける上部が扉の箱型冷凍庫で発酵させています」/羽生さん

タップルーム

醸造所に併設したタップルームでは8~10種類のローカルビールを提供。「弥彦ブリュ―イング」のビールは、麦芽比率50%以上だが、多様な副原料を用いるため「発泡酒」。

 「弥彦村で栽培された特別栽培米『伊彌彦米(いやひこまい)』をはじめ、枝豆、いちご、ふきのとう、食用菊、ぶどうなどの農作物を副原料として、20種のビールを造っていますが、季節限定の小ロット生産なので、いつも全種類が揃っているわけではありません。クラフトビールは仕込み方や寝かせ方で味わいが違ってくる、まさに『生き物』。ここが大手メーカーのビールとの一番の違いかもしれませんね。同じ銘柄でも、完全に同じ味わいには造れない。毎回、少しずつ違う『個性』を楽しんでもらえたら」と、羽生さんは楽しそうです。

 

老舗もニューフェースも続々参入

「吉乃川」のクラフトビール

吉乃川 酒ミュージアム「醸蔵」で、令和2年(2020)に生まれた「摂田屋クラフト」。ペールエールは麦芽のコク、ホップ由来の柑橘系の香り、きりっとした苦みが特徴/吉乃川

「MITSUKE Local Brewery」のクラフトビール

常時6種類程度のクラフトビールを揃えている。定番商品も醸造タイミングごとに味に違いがあり、まさに「一期一会」の出会い/MITSUKE Local Brewery

「t0ki brewery」のクラフトビール

令和4年(2022)3月に本醸造開始。今はホップジュースのようなさっぱりしたIPA「Clean Code」と、フルーティな濁り系IPA「Refactor」の2種類を提供/t0ki brewery

 令和を迎えた新潟でも、新しいブルワリーと新しいクラフトビールが生まれています。品質を追求し、製法や素材にこだわり、それぞれの個性をカタチに。もちろん、新潟ならではの「味」をしっかりと持った、新潟のビールです。
 醸造のまち・摂田屋(長岡市)では、創業474年の老舗酒蔵「吉乃川」が、令和2年(2020)にクラフトビールの醸造をスタート。日本酒と同じ仕込み水を用い、副原料には米麹を使用するなど、地元の酒蔵ならではのこだわりを詰め込んだビールです。
 南北に長い新潟県の中央にある見附市では、「MITSUKE Local Brewery」が地元らしさを信条に、地域密着型のビールを醸造。行政や企業、団体とも積極的にコラボレーションし、名産のサツマイモ「見附レディ」や三条市産の米粉を使ったビールなどを生み出しています。
 さらに、佐渡にもニューフェースが登場。クラウドファンディングで資金を集め、令和3年(2021)にオープンした「t0ki brewery(トキブルワリー)」は、江戸時代から続く「天領盃酒造」の敷地内にあり、日本酒に使うのと同じ井戸水で、佐渡初のクラフトビール造りを始めています。
 個性豊かなビールはおいしさと地域の歴史や風土も感じられると、観光に訪れる人にも人気です。

 

新しいものを生み出す新潟の風土

北前船資料

弥彦山に1本だけ自生する弥彦桜の樹皮を培養。初年は失敗し、2年目に200種の中から8株の酒造りに適した酵母を発見。「弥彦ブリュ―イング」ではその1株を入手して醸造。

 明治も今も、新潟は日本酒王国でありながら、なぜビール造りに乗り出したのでしょう。そこには新しいものに挑むベンチャー精神があるのではないかと、新潟の歴史に詳しい笹川さんは読み解きます。「誰もやっていないことをやる。それにはリスクもあるが、リターンは大きいという北前船が持つ価値観の影響があると考えています。さらに、開港地に集まる情報や物資、大地主を輩出する土地の豊かさが相まって、ベンチャー精神が生まれ育ち、現在まで引き継がれているのだと思います」
 そう、チャレンジは続いています。それは、麦芽・ホップ・酵母・水・副原料のすべてを新潟県内でまかなう「オール新潟」のクラフトビールの醸造です。令和4年(2022)春、「弥彦ブリューイング」では、東京農業大学と協力し、弥彦山に自生する弥彦桜の樹皮から純粋培養した天然酵母を使ったビールを醸造。「これでホップ・酵母・水の3つが揃いました。あとは麦芽です。新潟県産の小麦はあるのですが、発芽させるのが難しいんです。でも、今年の秋、挑戦します」と羽生さんは高らかに宣言。

弥彦桜を使ったビール

「動く商社」と呼ばれる北前船は、江戸時代から明治30年代にかけて日本海を航行。新潟湊にも多くの物資や最新の情報をもたらし、新潟っ子のベンチャー精神を刺激した。

 

 クラフト(手作り)の名前通りに、新潟産の農作物と、新潟の技術と思いが一つになった、新潟のクラフトビール。長い歴史を礎に、柔軟な発想とチャレンジ精神で、色も香りも味わいも格別なビールが次々と生み出されています。新潟ならではの新しい味との出会いが、続々と私たちを待っているようです。

 

掲載日:2022/6/6

 

 

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明治の新潟に「麦酒」があった

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