file-160 上越の食文化を一杯のどんぶりで存分に感じる、雪むろ酒かすラーメン(前編)

  

毎年変化しながら食文化を育むご当地ラーメン

「ラーメン王国」としてメディアに取り上げられる新潟県。県内各地に地域の風土によって生まれたご当地ラーメンが存在します。近年、その王国に注目の新ご当地ラーメンが誕生。上越市の食文化がどんぶりにぎゅっと詰まった「雪むろ酒かすラーメン」が、注目を集めています。

雪室食材と発酵食という地域の食文化を新しい形でつなぐ

上越の暮らしに密着しているラーメン文化

雪むろ酒かすラーメン

バラエティ豊かな雪むろ酒かすラーメン(2022年度のラインナップ一部)

上田さん

上越ものづくり振興センター主任の上田真之さん 。シーズンが始まる前に全ての雪むろ酒かすラーメンを食べた上で、情報を発信しています。

「雪むろ酒かすラーメン」は2019年2月に始まった上越市の冬の新名物で、上越市内のラーメン店が3つのルールに基づいたラーメンをそれぞれ開発し、毎年12月上旬から4月にかけて提供しているものです。

 

<雪むろ酒かすラーメンのルール>
1.上越産の酒かすを使うこと
2.雪室に貯蔵した食材を使用すること
3.発酵食品や上越産の野菜・魚介等をトッピングに使用すること
※ここでの上越産とは、上越市・妙高市・糸魚川市産を指す

 

 発足時はラーメン店14店舗の参加から始まり、第5シーズンにあたる2022年度は、20店舗が参加しています。
「上越市ではラーメンが長く愛されています。上越市のラーメンといえば、絶妙な脂具合と透明感漂う醤油ベースの『上越豚骨』。私の親世代も上越豚骨で育ってきたと聞きます」そう教えてくれたのは上越ものづくり振興センター主任の上田真之さん。雪むろ酒かすラーメンを立ち上げ期から担当しており、現在もその普及に努めています。上田さんは、上越市のラーメン店の特徴として、小上がりがある店が多いことを教えてくれました。小さな子どものいる家族も行きやすく、長い店では90年以上世代を超えて愛されてきた店もあるのだそうです。

 

上越らしさを追求した新メニューづくり

酒かす

酒かすは栄養価が高く、美容面での効果も期待できるスーパーフード

雪室

上越市安塚区の雪室施設

 雪むろ酒かすラーメンにつながるプロジェクト「上越ならではの産品づくり事業」が立ち上がったのは、2015年。東京オリンピック・パラリンピックを見据えた地域振興策として、市民からの提案を募ったところ最終的にスポットが当たったのがラーメンでした。上越ものづくり振興センターやラーメン店の店主が集まりアイデアの絞り込みや試作を重ね、ルールを制定し、2019年2月から参加店舗で雪むろ酒かすラーメンの提供がスタートしました。

 

 上杉謙信公の時代からあった浮き糀味噌、古くは江戸時代初期創業の酒蔵もある日本酒、さらにはどぶろく、漬物など発酵食品は上越市に昔から根付いてきた食文化。年間を通して湿度の高い気候が微生物の発酵に適していると言われています。酒蔵が12蔵もあり、野沢菜の粕汁(かすじる)といった郷土料理をはじめ、そのまま焼いて食べるなど、もともと酒かすは身近な食材で、体が温まるし栄養価も高いと、古くから蔵人たちの冬のまかない料理にも使われてきたそうです。
「しかし、すでに酒かすラーメンは京都にありました。そこで上越市ならではのものにしたい、ということで、雪室で熟成させた食材も加えようなどと、ラーメン店の店主から様々なアイデアが出されて現在のルールが決まりました」と上田さん。

 

 雪深い上越市では、昔から食品を雪の中で保存する、雪を利用した天然の冷蔵庫・雪室の仕組みが受け継がれています。雪室の中で米や酒、野菜などを保存することを「雪中貯蔵」と呼び、料亭や旅館でも夏場の冷蔵庫として使えるようにと「雪穴(ゆきあな)」と呼ばれるワラで覆った雪山を作って食材を保存していました。さらに水揚げされた魚の鮮度を維持するため雪と一緒に運ぶなど、雪は上越市の食を支える大切な資源だったのです。
 古くからの知恵として継承されてきた雪室ですが、現代では、一般の電気冷蔵庫よりも温度変化が少なく、年間を通じて低温で貯蔵でき、鮮度維持や食味の向上効果が科学的に解明されています。
 現在、上越市が保有している雪室施設が安塚区にあり、農業者や製造業者が食品を入れて熟成させ、高付加価値化につなげています。

 

ラーメン店×酒蔵の協力タッグで5年目に突入

顔合わせ交流会

参加ラーメン店の顔合わせ交流会の様子

 長い時間をかけて検討を重ね、2019年、遂にお披露目となった雪むろ酒かすラーメン。最初の2日間で200杯も提供する店が出るなど、瞬く間に話題となり、最終的に約3ヶ月で21,000杯を販売。参加ラーメン店の店主たちも手応えを感じました。
 2020年からは、上越市にたくさんある酒蔵や酒かすの魅力をさらに発信したいと、より一層酒蔵との連携を強化。上田さんはラーメン店と酒蔵とのマッチングに力を入れ、顔合わせの場を設けたり、参加する酒蔵の名前をより前面に打ち出すようになりました。一言で「酒かす」といっても蔵ごとはもちろん、搾る日本酒ごとに個性は千差万別。さらに「ピンク色の酒かすがある」「大吟醸より普通酒の酒かすの方が癖があって料理に合う」など、酒蔵からの情報は、ラーメン店主たちの大きな刺激となりメニュー開発に生かされています。さらに酒かすを提供している酒蔵の銘酒が当たるスタンプラリーも実施。現在では上越市の8割以上の酒蔵が参加し、ラーメンファンにとどまらず日本酒ファンにとっても注目の取組になっています。

 

 2022年度も個性豊かなメニュー20種類がずらりと揃いました。
 酒かすの使い方ひとつをとっても、肉味噌に混ぜたり、スープに入れたり、酒かすで魚介の臭みを抑えるなど、バラエティ豊か。多くの人が食べ比べを楽しむ光景が、今年も上越市に広がっています。
上越新名物「雪むろ酒かすラーメン」の紹介(上越市ホームページへリンク)

 

地域を思う人たちが、地域の文化を作り育てる

にんじん

雪室で保存され甘みを増すにんじん

 なぜブームで終わらずに浸透し、広がり続けているのか。上田さんはこう分析します。
「『ご当地の名物を作る』取組は、珍しいものではありません。しかし開発してからそれを継続していくことは大変です。そんな中で5年間、常に話題性を欠かすことなく続けてくることができた、その一番の秘訣は『みんなで上越市を盛り上げていこうよ』というラーメン店の思いに尽きますね」
 上越市ならではの風土、食材、そして人の思いが掛け合わさり、誕生した「雪むろ酒かすラーメン」という新名物。上田さんは、今度はそれをより多くの人に知ってもらうための施策を考えています。
「ふるさと納税の返礼品などにより、なかなか上越に来られない人にもこのラーメンを届ける、そんな展開もできれば面白いのかなと思っています。上越市に限定しすぎず、上越エリアという広い範囲でやっていけたら、という思いも持っています」

 

 雪むろ酒かすラーメンの盛り上がりを受け、今度は上越市の飲食店を横断した「さかきん発酵鍋」という新たな名物プロジェクトもスタート。酒かすを使い、上越産の野菜や魚介、発酵食品を使用するのがルールで、上越市の魅力発信に期待が集まります。
 この季節、冷えた体を温める一杯、地域の味を伝える一杯として楽しめる、雪むろ酒かすラーメン。
 雪室食材と発酵食品という、上越市の食文化を語る上で欠かせない魅力が、どんぶりいっぱいにぎゅっと詰まっています。

 

掲載日:2023/1/25

 


■ 取材協力
上越ものづくり振興センター 主任/上田真之さん

 

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後編 → file-160 上越の食文化を一杯のどんぶりで存分に感じる、雪むろ酒かすラーメン(後編)
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