賑わう「にいがた酒の陣」会場

file-167 目指すはSAKEの銘醸地・NIIGATA 新潟清酒の蔵人と愛好家が集う「にいがた酒の陣」(後編)

 新潟県産の清酒を味わえる最大のイベントが「にいがた酒の陣」。平成16年(2004)に始まり、新型コロナウイルス感染拡大による休止を挟んで、令和5年(2023)に再開しました。令和6年(2024)は3月9日、10日に新潟市の朱鷺メッセで行われ、おちょこでの試飲が復活しました。
 20年という年月を重ねてきた「にいがた酒の陣」が、人気イベントに成長するまでには、主催者である新潟県酒造組合の取組がありました。新潟県酒造組合「にいがた酒の陣」(以下、酒の陣)実行委員会で実行委員長を務めた齋藤俊太郎さんに、「酒の陣」開催への思いを聞きました。

会場の様子

県内の蔵元PR企画が一大イベントに成長

「にいがた酒の陣」実行委員長の齋藤俊太郎さん

 「にいがた酒の陣」を主催する新潟県酒造組合は、新潟県内の清酒蔵元で構成される業界団体です。実行委員長の齋藤さんは、第1回から開催に関わっており、令和6年(2024)は第一線で陣頭指揮を執ってきました。麒麟山酒造(阿賀町)の社長でもあります。
 令和6年(2024)の酒の陣は、午前・午後で各回4,000人の入れ替え制。令和5年(2023)は各回3,000人だったのを令和6年(2024)は4,000人に引き上げ、のべ1万6,000人が楽しんだことになります。チケットはすぐに完売になったことからも人気のほどが伺えます。
 今回取材したのは初回となる3月9日午前の部です。東京から上越新幹線で新潟入りする人も多く、車内で計画を練る人や、一足早く飲み始める人も。会場へのバスは頻繁に運行し、今か今かと開場を待ちわびる人でいっぱいでした。入場時にはオリジナルのおちょことやわらぎ水が渡されます。新潟県知事や新潟市長等による乾杯の発声で、本格的に試飲が始まりました。

各酒蔵の試飲ブースにはあっという間に行列ができました

冷酒や常温もあれば、お燗で試飲ができる酒蔵も

 令和6年(2024)は県内89蔵のうち78蔵が参加。スタッフのお酌やセルフで飲み放題の試飲ができます(一部銘柄は別料金)。人気の銘柄をあれこれ楽しめる貴重な機会です。

 酒の陣は「もともとは酒造組合50年を記念して、PRのために開催したものです」と語る斎藤さん。日本有数の日本酒イベントに成長した背景を「各蔵が独自に行ったりすることはあっても、県内の蔵元が一堂に会してイベントを開催することは全国的にも少なかったためではないでしょうか」と話してくれました。県内の酒蔵が一丸となって開催したことで認知度アップに成功したようです。

来場者の半数以上が新潟県外の日本酒ファン

当日配布された会場マップ
ブースは下越、中越、上越、佐渡とエリアごとに分かれていました

 新潟清酒をPRした成果があったのか、当初はほとんど新潟県内在住の人たちが中心だったのが、今回は6割が新潟県外の来場者だったそうです。
 会場で来場者にインタビューしたところ、チケットはあっという間に完売するため初日に購入したという人がほとんどでした。名古屋から転勤で新潟に来たという人は同僚と参加したほか、バス停では「千葉から来ました」と話す人も。会場を歩くと、若者や女性の姿も多く、客層の広さを感じました。

販売にも寄与し新たな新潟清酒活用も

左)定番の銘柄のほか、発泡タイプの日本酒を販売する酒蔵も増加
右)予想以上の売り上げで、商品の追加手配を行う蔵も

 試飲だけでなく、販売も行っており、酒の陣で初めて発表された新商品や限定販売を行う蔵元も多く見られました。物販の売れ行きが好調だったためか、宅配便の臨時受付には大行列ができていました。佐渡の蔵元は「明日の分まで売ってしまった。また蔵から持ってこなくては」と慌てて手配する姿も見られました。酒の陣はPRにとどまらず、販売拡大にもつながる重要なイベントでもあります。

日本酒仕込みのリキュールなどカラフルな商品は、
特に女性が興味深く手に取っていました

 会場では、清酒だけでなく、日本酒と果実を使ったリキュールや日本酒ハイボール、ノンアルコールの甘酒なども販売されて大きな関心を集めていました。

 また、新潟清酒の酒粕を乳酸菌と独自の発酵技術で発酵させた乳酸菌発酵酒粕「さかすけ」の試食が行われていました。それぞれの蔵元の酒粕を食べ比べてみると全く風味が異なることにびっくり。塩分ゼロで新しい調味料として期待できそうです。

この日は4蔵元の酒粕から作った「さかすけ」を食べ比べできました

会場の外では、新潟清酒を原料にした化粧水やパックも販売
新潟みやげにもぴったりです

めざせ「金の達人」新潟清酒達人検定

ボランティアで酒蔵の手伝いをしていた「金の達人」の方々

 多くの来場者でにぎわう中、お酒を注ぐなど蔵元のブースを支えていたのが、「金の達人」の人々。「新潟清酒達人検定」で「金の達人」に合格者した方々が、ボランティアとして会場で活躍していました。
 新潟県酒造組合を中心とする新潟清酒達人検定協会では、新潟清酒への理解を深めてもらおうと「新潟清酒達人検定」を行っています。
 「銅の達人」(3級)、「銀の達人」(2級)、「金の達人」(1級)というランクがあり、中でも「金の達人」は最難関です。検定は年1回の開催で、「銅の達人」から順番に取得していく必要があり、「金の達人」になるためには最短でも3年かかります。

 酒蔵でお酒を注ぐ手伝いなどをしていた「金の達人」の男性(柏崎市在住の会社員)は「広範な知識を要求されるため、合格するまでの勉強が大変でした」と話します。日本酒の知識が豊富な日本酒ファンの心を刺激する検定ですね。

金の認定証と缶バッジでアピール

「新潟清酒達人検定」の認定証とバッジ
上から「銅の達人」、「銀の達人」、「金の達人」

県内の蔵元が団結できるのが強み

 実行委員長の齋藤さんに、新潟県内の蔵元や酒造組合の特色を聞くと、普段はライバルでも、情報を共有し、いざというときの団結力が強いことだといいます。
 新潟県中越大震災など災害が発生した際は、被災した蔵を別の蔵が支援していたそうです。また、いいと思った技術は他の蔵と共有することも少なくなく、新潟清酒のレベルアップを目指したいという気概の表れだろうと話していました。
 ライバルでありながらも業界全体で支えるという団結力と、新潟清酒をもっと盛り上げたいという危機感と情熱が、酒の陣を成功に導いたひとつの理由でもありそうです。
 最後に、齋藤さんは「代替わりが進んでおり、個性的な酒蔵も増えています。自由なスタイルで新潟清酒を楽しんでもらいたい」と話してくれました。

酒蔵ごとにブースにも個性があり、着ぐるみや帽子などで盛り上げます
来場客も蔵元も笑顔なのが印象的でした

【参考】
新潟清酒達人検定

【取材協力】
新潟県酒造組合「にいがた酒の陣」実行委員長 齋藤俊太郎様

前の記事
一覧へ戻る
次の記事