特集 File01

file-1 越後妻有アートトリエンナーレ

新潟県中越の十日町市、津南町2市町を舞台に3年に一度繰り広げられる「大地の芸術祭」は、世界でも珍しい屋外の大自然を舞台にしたアートの祭典。自然豊かなうえに県内でも有数の豪雪地帯に点在するアート作品。おもに屋外展示で、古い農家の玄関先や、深い森の中からひょっこり現れたりもします。
日本の原風景、里山を舞台にするとともに、世界中の現代アート作家は、自ら妻有を訪れて設置場所を決めてから作品を構想、地域の人々から協力を仰ぎ時には一緒に制作するという一風変わったスタイルも特徴。年々ファンを増やし今や海外でも広く知られ、前回2006年には、自国の作家の作品を展示してくれる集落を大使夫妻が訪れて交流したり、作家やその関係者と地域との交流も盛んに行われています。
次回の開催は2009年の予定ですが、実は会期中以外でもアートは楽しめるんです。過去3回の開催時から恒久的に保存されている作品はもちろん、大地の芸術祭の主役ともいえる妻有の大自然。そしてそこに暮らす人々のあたたかさは、いつも変わらずここにあるのです。

たとえばこれもアート

アスファルト・スポット
R&Sie建築事務所(フランス)

駐車場ですが、地面がめくれています。一部は駐車できますが、一部は無理です。十日町から旧川西町へ渡る妻有大橋のたもとにあり、大変見晴らしのよいところです。2003年作品。

河岸の燈篭
河岸の燈篭
CLIP(日本)

トイレです。信濃川の堤防にあり、夕暮れに対岸から眺めると灯籠のような風情があります。近くに「ミオンなかさと」という日帰り温泉施設があります。2000年作品。

ミルタウン・バスストップ
ミルタウン・バスストップ
ジョセップ・マリア・マルティン(スペイン)

バス停です。1日に数本しか来ないバスを、地元のお年寄りが語らいながらのんびり待つ姿を見た作家が、自らの作品を「バス停」にしました。2000年作品。

創作の庭
創作の庭
土屋公雄(日本)

花壇です。ただの花壇ではありません。らせん状です。中心までは円を描きながら歩くしかありません。ちょっと手間ですが、作るのに4年かかったので我慢して下さい。真ん中まで行くと、360度が花です。地元の人たちが愛情を込めて植えました。2003年作品。

ステップ イン プラン
ジョン・クルメリング/テキストデザイン浅葉克己(オランダ/日本)

看板です。ただの看板ではありません。登れます。日本三大薬湯として歴史の深い松之山温泉の入り口に立っています。地元の人たちからは「湯けむり情緒がない」と大ブーイングでした。今ではランドマークとして認められ、テキストデザインの浅葉氏との深いつながりが築かれているそうです。2003年作品。

ステップ イン プラン

ポチョムキン
カサグランデ&リンターラ建築事務所(フィンランド)

公園です。田んぼと山だけの景色の中にいきなり現れるので、誰もが思わずブレーキを踏みます。昔は集落の子どもたちの遊び場でしたが、近年は不法投棄の現場となって荒れていました。この作品によって再び地域の憩いの場として生まれ変わったのです。公園は壁の中にあるので、見つけたら車を止めて中を歩いてみて下さい。2003年作品。

ポチョムキン
泊まれるアート

宿泊情報=http://www.echigo-tsumari.jp/tour/art.html

節黒城跡キャンプ場コテージA棟
河合喜夫(日本)

お風呂に浸かりながら越後三山を望む絶景が好評です。広さ2畳の階段があります。2000年作品。

節黒城跡キャンプ場コテージA棟

節黒城跡キャンプ場コテージB棟
塚本由晴+アトリエ・ワン+三村建築環境設計事務所(日本)

窓という枠で切り取った景色は、外で見る景色とはまったく違うものです。切り取った景観を見せるために、見せたい景色を見せるために設計されたこのコテージは、そのため建物がねじれてしまいました。2000年作品。

節黒城跡キャンプ場コテージA棟

節黒城跡キャンプ場コテージC棟
石井大五(日本)

太陽は1時間で15度傾きます。この動きをリアルタイムで感じられるよう作られたコテージです。グッドデザイン賞を受賞しました。2000年作品。

節黒城跡キャンプ場コテージC棟

光の館
ジェームズ・タレル(アメリカ)

平野を望む丘の上にあります。それだけでも贅沢ですが、屋根が開くのがさらに贅沢です。天井の壁は光の仕掛けによって色合いが変化します。不思議な光景です。雨の日は、これまた不思議なお風呂を楽しんで下さい。この建物は「新日本様式100選」(新日本様式協議会)に選定されました。2000年作品。

光の館

夢の家
マリーナ・アブラモヴィッチ(旧ユーゴスラヴィア)

見知らぬ人々の、夢を紡いでゆくためのアートです。そのためには泊まることが必要です。着ぐるみのようなパジャマ(ドリームスーツと呼ぶ)を着て、水晶枕付きの木製ベッドで寝ます。パジャマのポケットには強力磁石を仕込みます。眠れないかも知れませんが、夢はノートに書いて下さい。あなたの見た夢が一つのアートになります。2000年作品。

夢の家

田園の中の異国ing(OUTLAND)
芹川智一(日本)

手作りのコテージが何棟もあります。大地の芸術祭のために作られたのではない、珍しい作品です。会期終了後は、個人経営の手作りログハウス村として営業されています。妻有の自然を存分に味わって下さい。
http://www.outland.co.jp/blog/

まとめて見たい人はこちら
越後妻有交流館「キナーレ」

会期中はインフォメーションセンターが置かれる大地の芸術祭の入り口ともいえる拠点です。十日町の地場産業である着物の美しさ、楽しさに触れる「きもの歴史館」や「和装工芸館」、体験工房のほか日帰り温泉「明石の湯」もあります。

こちらで体感できるアート
  • 原広司+アトリエ・ファイ建築研究所(日本) 『越後妻有交流館・キナーレ』
  • スティーヴン・アントナコス(ギリシャ/アメリカ) 『3つの門のためのネオン』
  • 星野健司(日本) 『火を護る螺旋の蛇』
  • 郷晃(日本) 『シルクの水脈』
まつだい雪国農耕文化村センター「農舞台」

気の遠くなるような時間と手間で作り上げてきた棚田。この建物は舞台という名がついていますが、実は棚田と向き合うための客席です。地元のお母さんたちが用意してくれるごはんも食べられます。素材も地元産です。手作りジンジャーエールが出色です。しゅわしゅわするしょうが汁です。

こちらで体感できるアート
  • MVRDV(オランダ) 『まつだい雪国農耕文化村センター「農舞台」』
  • ジョセップ・マリア・マルティン(スペイン) 『まつだい住民博物館』
  • 河口龍夫(日本) 『関係-黒板の教室 』『関係-農夫の仕事」 』
  • 牛島達治(日本) 『くむ・めぐる・いとなむ 』
  • ファブリス・イベール(フランス) 『火の周り、砂漠の中 』
  • ジャン=リュック・ヴィルムート(フランス) 『カフェ・ルフレ』
  • 藤本修三(日本) 『空と地の間にて』
  • イリヤ&エミリヤ・カバコフ(ロシア) 『棚田 』
  • 小沢剛(日本) 『かまぼこ型倉庫プロジェクト』
  • 草間彌生(日本) 『花咲ける妻有』
  • 歳森勲(日本) 『旅人の迷路』

※農舞台の向かいにある棚田とその山(城山)には、さらに多くの作品があります。

越後松之山「森の学校」キョロロ

美人林と呼ばれる美しいブナ林のそばにあり、里山の自然や生き物と触れ合う拠点。棚田の手入れや森づくり、野外観察会などが毎週行われています。GIS(チリ情報システム)を使い、ふるさとの自然を住民の手で常に観測するなどの取り組みも行われています。

こちらで体感できるアート
  • 手塚貴晴+由比 『越後松之山「森の学校」キョロロ』
  • 庄野泰子 『キョロロのTin-Kin-Pin-音の泉』
  • 逢坂卓郎 『大地、水、宇宙』
  • 笠原由起子+宮森はるな 『メタモルフォーゼ-場の記憶-松之山-』
  • 遠藤利克 『足下の水(200m3 )』
未来へつながるアート

2000年から始まって世界中の多くの国と地域からおよそ200組のアーティスト参加した大地の芸術祭。回を重ねるごとに地域の人々とアーティストとの協働が進み、多くの来場者を集め、妻有地域は世界に向けて紹介されました。大地の芸術祭によって始まった出会いが、この地域では幾つも芽を出しています。

そして2006年には、豪雪地であり過疎地域でもある妻有の空家をアートにしてスポンサーを募る「空家プロジェクト」がスタート。松代地域では農産物や地元の食を通じて都市との交流が始まっています。陶芸作家が一堂に集まった「うぶすなの家」に参加した吉田明氏は、妻有の土を使った陶作を開始するため妻有に工房を構えました。「妻有焼」がこれから始まります。

次回開催は2009年の予定。その頃世界は、日本は、そしてこの妻有はどんな姿をしているでしょうか。大地の芸術祭は、雪深い妻有から新たな社会のあり方を提示しようとする、そのような試みなのです。

主催 大地の芸術祭実行委員会
実行委員長 田口直人(十日町市町)
名誉実行委員長 泉田裕彦(新潟県知事)       
総合ディレクター 北川フラム
開催エリア 2市町(第2回までは6市町村。合併による) 760km2
開催期間 7月23日ー9月10日(2006年第3回)
来場者数 2000年 162,800人      
2003年 205,100人      
2006年 348,997人

さらに詳しく

 1994年、新潟県は「ニューにいがた里創プラン」と名付けた事業を立ち上げ、その第一号に妻有地域6市町村(十日町市、松代町、松之山町、川西町、津南町、中里村。その後津南町を除く5市町村が合併し十日町市となる)を選びました。同プランは新潟県の14広域行政圏それぞれが独自の価値を持った地域づくりを目指すもので、妻有地域は当初からアートを媒介にした価値発信を目指しました。その延長線上に、大地の芸術祭があります。この背景には、この地域の中核である十日町市の地場産業の低迷、高齢化、過疎化など地域の活力をそぐ難題に対し、従来通りのアプローチでは立ち行かなくなっていたという面もあります。またその後の広域合併を見越した地域の連携強化を図る必要もありました。
2000年に第一回を迎えた大地の芸術祭は、総合ディレクターに上越市出身のアートディレクター北川フラム氏を迎えて行われました。作家や作品の選定、都市の美術学生を中心に集まったボランティア集団「こへび隊」の動員など、妻有地域で北川氏は精力的な活動を繰り広げました。しかし、当初は地域住民との摩擦もなかったとはいえません。それらはおおむね以下の二つに要約されます。現代アートが地域の人々にとっては遠い存在であったこと、「アートに使うお金があるならばもっと生活に密着したことに使ってほしい」という思い。予算は県と6市町村が拠出しましたが、必ずしも潤沢な資金があったとはいえず、国の補助金などを活用してトイレや公園などの整備にアーティストを参加させることで作品数を増やしていきました。
回を重ねるごとに妻有地域を訪れる人々、国内外からの高い評価、そして現代アートに直接触れる経験、作家との交流を通じて地域の人々の理解も広まってきています。企業やフランス、オーストラリアなど海外からの援助にも支えられています。その中でも2005年から(株)ベネッセコーポレーションの福武總一郎代表取締役会長兼社長兼CEOが重要な役割を果たし、支援の輪を広げることに大きく貢献しています。
 当初の予定通り、次回2009年開催からは県からの支出がなくなるために2006年開催からは地域での自立した継続を見越したさまざまなプロジェクトが立ち上がりました。次回開催は福武總一郎氏を総合プロデューサーに迎え資金調達と事業費管理の責任者とし、総合ディレクターはこれまで通り北川フラム氏。十日町市に事務局が設置される体制で準備が進められています。
日本の原風景ともいわれる棚田と豊かな自然環境、都市を支える水源、魚沼コシヒカリの産地。その一方で毎年の豪雪、高齢化と財政事情に悩む地域。ここから世界に向けて何を発信し、地域をどう活性化させることができるか。2000年から始まった壮大な実験は、これからが本番を迎えるのです。

協力:十日町広域事務組合

【大地の芸術祭に関するお問い合わせ先】

十日町地域広域事務組合 企画振興課
〒948-0036 十日町市北新田1番地10

TEL 025-757-2637
FAX 025-757-2285
URL http://www.echigo-tsumari.jp/
E-mail info@echigo-thumari.jp

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