
file-37 定期市と雁木通りのまち巡り 「私」を「公」にする雁木通りの精神


雁木通りに並ぶ朝市。このロケーションを目的に訪れる観光客も。

現在稼働している映画館として日本で最も古い「高田世界館(旧高田日活)」。現在はNPO法人街なか映画再生委員会が管理運営している。

「高田世界館」では、「四・九の市」の開催に合わせて懐かしの名画を上映。市の盛り上げに一役買っている。

地元作家のひぐちキミヨさんが書いた「あわゆき道中」のイメージイラスト。城下町高田を語る上で雁木通りは欠かせない。
日本屈指の豪雪地帯として知られる上越地方。「二・七の市」と「四・九の市」が開かれる高田の中心市街地、仲町や本町、大町には今も雁木通りが残り、地元市民のみならず多くの観光客に愛されている。
この雁木は寛永から寛保にかけて整備されたもので、道に面する町家の出入り口に雪よけとして掛けられた支柱付の軒庇(のきびさし)。これを個々の家が協力し、軒を連続させることで、雨、雪、日よけの通路「雁木通り」が形成される。雁木が列のように連なっていることからこの名となった。
お互いが軒先の「私」を出し合い、「公」の通路という役割を担って、雪国の暮らしを助け合ってきた様子がうかがえる。
最近では、この地域の住民による町並み保存や地域づくりの活動が注目を集めている。
現役として日本で最も古い映画館「高田世界館(旧高田日活)」の保存活動を行うNPO法人街なか映画再生委員会。今年から「四・九の市」の開催に合わせて、昔懐かしい洋画や邦画を500円で鑑賞できる名画劇場「ワンコインシネマ」を行っている。これまでに「ローマの休日」や「東京物語」、「駅馬車」などがラインアップされ、朝市帰りの客にとっても楽しみのひとつとなっている。
ほかにも女性メンバーが中心となり、女性ならではの目線を活かした町家イベントなどを開催している「あわゆき組」も。中心市街地のイベントに合わせて町家を甘味の休憩所として公開する「あわゆき亭」や、明治から昭和にかけて活躍した女性の防寒具「角巻(かくまき)」を着て、雁木の街を歩く「あわゆき道中」などユニークな活動を行っている。
これ以外にも仲町6丁目に残る町家を拠点に上越の歴史と文化を継承していくNPO法人頸城野郷土資料室など。また、これら中心市街地で活動する団体同士を横断的に連携させる「街なみFocus(フォーカス)」も設立された。
それぞれが行う「点」の活動をつなげ、「一部の人がやっている」のではなく、地域が一体となった活動にしていこうという姿は、雁木通りの精神が今に息づいている証であるように思える。
日本最古の現役映画館「高田世界館」がつくられ、この地にスキーがもたらされた約100年前に、時を同じくして始まった上越の朝市。激動の世紀を経た今でも、朝市で交わされる温かい人情は変わってはいない。
《 参考文献 》
・ 直江津の歴史:「直江津の歴史」編集委員会(1971)
・ 高田風土記:稲荷弘信(1978)
・ 上越の朝市:上越市
・ くびき野文化事典:NPO法人頸城野郷土資料室(2010)
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