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file-79 解剖学のパイオニア 小金井良精

  

研究にささげた生涯と家庭人としての一面

27歳の若さで教授に

 明治18(1885)年に帰国した良精は東大医学部講師となり、日本人として初めて解剖学の講義を担当。翌19(1886)年には27歳の若さで教授となります。
 良精の研究は、常に事実を基にした具体的思考と研究経過を明確に示しながら、真理を導き出そうとするものでした。研究者としての真摯な姿勢が表れている、良精の言葉を紹介します。「研究とは、注目されることの少ない、地味な仕事である。しかし、真理をめざし、思考と実験を反復するなかには、金銭でえられない味がある。また、業績を発表し、海外の学者から反響があると、こんな楽しいことはない。研究の業績は、才能でなく、努力によるところが多い。それだけのことは、必ずある」   

人類学にも没頭

 
  

 良精は解剖学でなく人類学研究にも没頭します。北海道を旅行し、アイヌ人の生体計測と骨格資料の収集を行うなど、研究に励みました。日本の先住民族はアイヌであるとして、当時日本の人類学・考古学の草分け的存在であった坪井正五郎と「コロボックル論争」を展開します。
 昭和2(1927)年、「本邦先住民の研究」と題して御前公演を行いました。良精69歳の時です。「日本各地の貝塚から発掘された人骨をよく観察すると、屈葬・着色・装飾品など、埋葬状態に幾つかの興味ある事実が存在すること。貝塚から出る人骨は、貝よりも下の層から発見されること。また、日本の石器時代の人骨・アイノ(アイヌ)人の人骨・日本人の人骨それぞれの特徴を比較すると、石器時代の人骨は日本人よりもアイノ人に近い。他にも考古学上の事実を考慮した上で、アイノ人こそ本邦の先住民族である」と述べました。この結論は、良精がおびただしい数の人骨を計測し比較した結果、得られたものです。地味で先の見えない研究の中から真理をめざす…まさに、先に紹介した良精の言葉のとおりです。   

家庭人としての良精

 
  

 良精の偉業は多大なものですが、その人柄についてものぞいてみましょう。
 明治21(1888)年、先妻と死別していた良精は再婚します。妻の名は喜美子。森鷗外の妹です。鷗外同様文学に秀でた喜美子との結婚は、良精の暮らしをより一層充実したものとしました。
 SF作家の星新一は、良精の孫です。星新一の著書『祖父・小金井良精の記』は、明治13(1880)年から昭和17(1942)年まで休むことなく記された良精の日記をもとに書かれました。新一にとって良精は「家族の中で最も好きだったおじいさん」。例えば、良精の部屋にあった研究材料の頭蓋骨。これをおもちゃにして遊んでいた新一に「この歯ならびは…」と真面目に説明を始める良精。新一が小学生の頃にプレゼントしたお手製のペン皿を生涯愛用していたこと。「東京大学名誉教授」という肩書からは想像できない「おじいさん」ぶりや、誠実で素朴な人柄を、孫ならではのエピソードを交えて伝えています。   

研究にささげた生涯

 小金井良精・胸像  

東京大学にある良精の胸像。頭蓋骨を抱き、ノギス(計測機器)を持っているところが、生涯を研究に捧げた良精を象徴しているかのようです。



 

 晩年を迎えても、良精の研究意欲は衰えることはありませんでした。年末年始も休まず大学へ出勤し、暖房設備のない名誉教授室でひとり研究材料の骨を洗う良精。80歳を過ぎても妻の喜美子に付き添われて大学へ通い、研究を続ける良精は、いつしか「仙人」と呼ばれるようになりました。
 昭和19(1944)年、家族に見守られ、良精は静かに息を引き取りました。その身体は剖検(医学のための献体)のため、70余年通った東大赤門をくぐりました。これが、最後の出勤。解剖学者としての最後の責務を全うしたのです。  

    




■取材協力
桜井奈穂子さん(長岡郷土史研究会会員、長岡市立中央図書館文書資料室嘱託員)

■写真提供
岡本洋子さん(小金井良精のひ孫)

■主な参考文献
星新一『祖父・小金井良精の記』上・下巻(河出書房新社、平成14年)
桜井奈穂子「小金井良精とワルダイエル先生~蔵書票をめぐる旅」(『長岡郷土史』第46号、長岡郷土史研究会、平成21年)
桜井奈穂子「連載 長岡の碩学(10)小金井良精」(『長岡あーかいぶす』第10号、長岡市立中央図書館文書資料室、平成23年)
『ふるさと長岡の人びと』(長岡市、平成10年)
    

 

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