file-97 新たな展開をみせるマンガ王国・新潟(前編)

  

産業としてのマンガ・アニメの可能性

 世界に愛される日本のサブカルチャー、マンガとアニメ。クールジャパンの重要なコンテンツとして、政府も魅力発信のために様々な政策や事業を行っています。マンガ王国・新潟でも、情報発信施設や、マンガ家志望者のためのシェアハウス、さらにマンガを核としたマッチングビジネスが誕生しています。刻々と進化するマンガの「今」を紹介します。

若手マンガ家を育てる、現代の「トキワ荘」

 かつて東京都豊島区にあった、古びた木造アパート「トキワ荘」をご存じでしょうか。昭和のマンガファンには懐かしい名前かもしれません。若き手塚治虫や赤塚不二夫などの新進マンガ家たちが暮らし、彼らを尊敬して、マンガ家を目指す若者たちが集まってきたという伝説的な場所です。そのスピリッツを受け継ぐシェアハウスが新潟市に生まれました。

 その名は「古町(こまち)ハウス」。新潟市の「マンガ・アニメを活用したまちづくり構想」の一環として平成27年(2015)春に開設されました。マンガ家をめざす若者を対象に、家賃負担のないシェアハウスとして経済的負担を軽減し、創作活動を継続できる環境を提供すること。同じ目標を持つ者同士が切磋琢磨、相互協力することで、知識や技術の習得や向上を図ること。こうした狙いを持つ新潟市の事業です。

糸魚川市出身の古畑 静香さん

糸魚川市出身の古畑 静香さん。「古町ハウス」で。高校卒業後、2年間働いてためたお金を基に専門学校に入学した。

制作中の古畑さん。

制作中の古畑さん。作品の世界観を創った後は、すべてのセリフと絵を入れたシナリオを作る。「ここがいつも難産で、時間がかかります」。

「古町ハウス」の仲間と

「古町ハウス」の仲間、高山 春香さんと。タイミングが合うと一緒に夕食を作ることも。「話すのはいつもマンガのことばかりですね」(古畑さん)。

鈴木昭英さん

入居者4人で、ダイニングキッチンや浴室、トイレなどの共有スペースの掃除・ゴミだしなどを、分担して行っている。

 今、「古町(こまち)ハウス」には、マンガ家を目指す4人の女性が入居しています。古畑 静香さんはその一人です。
 「私の作品ジャンルは少年マンガ。子ども心を思い出させるような作品を描きたいと思っています。今、構想を練っているのも、少年が知恵を働かせて大人の悪い奴をやっつけるもの。アクション系です。」
 高校卒業後にいったん就職したものの、子どもの頃から憧れていたマンガを描くことが諦められず、日本アニメ・マンガ専門学校に入学。卒業後、アルバイトをしながら描き続けているときに、新潟市のホームページで「古町(こまち)ハウス」の入居者募集を知って応募しました。

 入居期間は平成29年(2017)3月まで。入居条件として、「にいがたマンガ大賞」や各誌の新人賞への応募を含めた制作状況や予定の報告、半年に1編の制作物提出が求められます。また、新潟市の施設「新潟市マンガの家」、「新潟市マンガ・アニメ情報館」でのイベント参加や協力も含まれます。人材を育てるための条件ですが、「アマチュアにはプレッシャーに感じられ、応募には覚悟が必要でした」と、古畑さんは言います。

 「でも、入居できてよかったです。入居前は、生活費と専門学校の奨学金を返すためにアルバイトを週6日していましたが、今は回数も時間も減らすことができ、助かっています。そして、同じくらいに仲間の存在もありがたいです。マンガを描くのは孤独な作業だから、疑問や不安を抱いたときに相談でき、共感してくれる仲間が近くにいると、本当に心強くて」。

 さらに、イベントに協力する中では、プロの作家や全国誌の編集者に会うチャンスもあり、原稿を見てもらえるのも「大きな利点」だと言います。

 「今の目標は全国誌の新人賞を取ってプロデビューすることです。入居期間はあと1年と少し。焦りも不安もあります。でも、ここで結果を出せなかったら、きっぱりあきらめることも考える。そう決めて、がんばっています」。
 とはいえ、デビューはゴールではありません。その先には、全国誌で読み切りではなく、連載を持ち、単行本を出版するという目標があります。古畑さんの挑戦は続きます。

マンガ・アニメの仕事体験ができる施設

 「マンガ・アニメを活用したまちづくり構想」に沿った事業としては、平成25年(2013)に二つの施設も誕生しています。前述の「新潟市マンガの家」と「新潟市マンガ・アニメ情報館」です。両館で副館長を務める小池 利春さんにお話を伺いました。
「新潟市マンガの家」での業務サポート

「新潟市マンガの家」での業務サポートは、「古町ハウス」入居条件のひとつ。

 「どちらの施設も、娯楽としてだけでなく、仕事としてマンガ・アニメを見ることができるのが特徴です。『新潟市マンガ・アニメ情報館』では、マンガとアニメの制作工程が見られ、声優体験もできます。『新潟市マンガの家』でも同様に、ほぼ毎日開いているマンガ講座では、プロ仕様の道具を使って絵を描く体験、1コママンガの創作体験、テクニックアップのアドバイスを受けることなどができます。マンガ原稿を描いているところを見学するときには、子どもたちが食い入るように見入っていますよ」。
 シェアハウスの4人もこのマンガ講座で教え、マンガの魅力を伝える手伝いをしています。

金子セキ・中静ミサオ・関谷ハナ

「新潟市マンガ・アニメ情報館」、「新潟市マンガの家」の副館長の小池利春さん。日本アニメ・マンガ専門学校に務めた前職では、何人もの教え子のプロデビューを支えた。


 赤塚 不二夫、水島 新司など、ゆかりのある有名な作家が多い新潟。昭和58年(1983)にはマンガ同人誌の展示即売会「ガタケット」、平成10年(1998)にプロ・アマチュアを問わないコンテスト「にいがたマンガ大賞」がスタートし、平成12年(2000)には「日本アニメ・マンガ専門学校」が開校。読む楽しみだけでなく、プロ作家やマンガ業界を担う人材育成が行われ、マンガの持つパワーが醸成されてきました。地域と市民と企業が一体になって育ててきた活力です。

 こうした状況で誕生した施設では、すぐに成果が表れました。「新潟市マンガ・アニメ情報館」の集客は1日平均400人。平成26年(2014)2月の企画展「エヴァンゲリオン展」には県内・隣県はもちろん、海外からも来場者が訪れ、最終日は1200人を記録。こうした成功事例によって、マンガ・アニメのイベントで、新潟は東京・大阪に次ぐ開催地として認知されています。
 また、「新潟市マンガの家」で開催されるマンガの体験講座は、休日には満員になるほどの人気を博しています。

 「マンガ家をめざす人やマンガ文化に携わる人材を育てる土壌は、整ってきたと思います。これからは、専門学校やコンテスト、シェアハウスで育成した人材に、新潟でどのように活躍してもらうか。仕事として描き続けられる環境を作っていかなければと考えています。」と、小池さんは語ります。

 後編では、マンガビジネスの新しい動きについて紹介します。

 


■ 取材協力
マンガ家志望者向けシェアハウス「古町(こまち)ハウス」
新潟市マンガ・アニメ情報館
新潟市マンガの家

■ 関連サイト
MangAnimeナビ にいがた http://www.manganime-niigata.jp/

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