第51回 「文弥(ぶんや)人形」に夢中!〜佐渡人形芝居親子教室を体験〜

 伝統芸能は「守るべき文化」「受け継がねばならないもの」として語られることが多く、「難しそう」「堅苦しい」という印象を持たれがちですが、「佐渡人形芝居親子教室」に通うこどもたちは、少し違います。
 楽しみながらも、真剣に、「文弥人形」に向き合っています。
 その魅力がどこにあるのかを知りたくて、佐渡人形芝居親子教室に通う姉妹を取材しました。

佐渡人形芝居親子教室に通う三島さん姉妹。姉の穂風(ほのか)さん(右)は中学1年生、妹の天瑠(てる)さん(左)は小学4年生。教室がある日は、自宅のある真野地区から車で30分かかる金井地区の「ときわ館」まで通っています。

「文弥人形」って?

 江戸時代からの古い歴史を持つ佐渡の人形芝居。佐渡には、説経人形・ のろま人形・文弥人形の三つがあり、「佐渡の人形芝居」として国の重要無形民俗文化財に指定されています。

 文弥人形は、京都から伝わった文弥節(※)に、明治時代初期に人形が結びついて生まれたもの。動きが早いのが特徴で、素朴で自由な人形の遣(つか)い方と「なき節(ぶし)」といわれるもの悲しい語りに特徴があります。

※17世紀初めに成立した古浄瑠璃(こじょうるり)の一流派。語り手・岡本文弥の名に由来するといわれます。文弥節を伝承している代表的な地域が佐渡で、文弥人形と結びついた人形芝居として継承され、中世的な語り芸の姿を今に伝えています。

稽古を見学。稽古場所は人形一座「常磐座」の舞台

教室が開かれる「ときわ館」は、文弥人形の一座「常磐座(ときわざ)」の拠点(きょてん)。こどもたちも、この立派な舞台と本物の文弥人形を使って稽古をしています。

 佐渡人形芝居親子教室が行われるのは、毎年9月末から12月までの全9回。佐渡島内に住む小学3年生から中学3年生までのこどもたちが対象です。

 国の重要無形民俗文化財に指定されていることから、稽古も厳しいのかと思いましたが、会場となる「ときわ館」に行くと、こどもたちは、畳の上で寝転がったり、遊んだり、おしゃべりしたりと、実にのびのびした雰囲気です。

島内各地からこの教室に集まってくるこどもたちは、みんな仲がいい。どうして文弥人形?と聞くと、みんな「おもしろいから!」といいます。一度教室に参加すると、毎年来る常連になる子が多いそうです。

主催の(一財)佐渡文化財団の伊里さんと、常磐座座長で指導役の和田さんの挨拶から稽古が始まります。

 見学にお邪魔したのは10月。佐渡人形芝居親子教室では、最初に文弥人形の歴史を教わり、そこから人形の構造や遣い方、そしてそれぞれの演目や役柄を決め、その役柄の稽古をします。

 指導してくれるのは、常磐座の座長・和田登志江(わだとしえ)さん。常磐座は人形一座としては珍しい、女性だけで構成される一座です。この日は4回目の教室とあって、すぐに演目の稽古が始まります。

どの演目から稽古をするか、和田さんがこどもたちと打ち合わせ。とても家庭的な雰囲気です。

 姉の穂風さんは、この佐渡人形芝居親子教室が最初に始まったときから参加しているベテラン。小さなときから民謡を習っているそうで、「文弥人形の教室があるけど行ってみる?」と母に聞かれて、「やってみたい!」と言ったのがきっかけだそうです。通い始めたらおもしろくて、妹の天瑠さんも誘い、毎年のように参加しているそうです。

年下の子たちの稽古にも入る穂風さん。稽古中の真剣な表情。

 穂風さんが稽古しているのは、「出世景清(しゅっせかげきよ)〜小野姫道行〜(おののひめみちゆき)」の小野姫。近松門左衛門(ちかまつもんざえもん※1)と竹本義太夫(たけもとぎだゆう※2)が連携した最初の作品で、日本初の本格的な長編悲劇といわれる作品です。

 文弥人形の演目は、歴史にまつわる古い物語ばかり。こどもたちには少し難しいのではないかと思われますが、「こどもたちの年齢もさまざまなので、小学生の子がお兄さんがやっていた役を自分がやってみたいとか、初めて教室に来た子には誰もが知っている役柄にするなど、その子に合った人形を、和田先生が選んでくれるんです」と常磐座の若手スタッフ。

※1 江戸前期の浄瑠璃・歌舞伎作者。名作を残し、人形浄瑠璃文学を大成した人。
※2 浄瑠璃語りの名人。義太夫節を創始し、力強い語りで人形浄瑠璃を発展させた人。

中央が穂風さん。一緒に稽古をしているのは中学2年生の永橋のどかさん(左)。教室の最後に行う「お披露目会」で二人は同じ演目を披露するそう。稽古は演目ごとに呼ばれて、一人ずつ丁寧に和田さんから指導してもらいます。

今年初めて教室に参加したという春日さん兄弟。牛若丸と弁慶が五條(ごじょう)の橋で初めて出会う有名な演目「孕常盤(はらみときわ)」を特訓中!

佐渡人形芝居親子教室のお手伝いをしてくれる常磐座の若手三人。中央のジョセフ・グレッコさんは金井中学のALT(外国語指導助手)。3年前に佐渡に来てすぐ、たまたま見た文弥人形に夢中になり、それからずっと常磐座で学んでいるそう。

 自分の演目の稽古までは、舞台袖で稽古を見たり、小道具でチャンバラをしたり、リラックスして過ごすこどもたち。妹の天瑠さんは、お友達の海美(うみ)さんと楽しそうにおしゃべり。

天瑠さんと、お友達の中川海美さん。海美さんは5年生で、この教室には去年から通っているそう。「天瑠ちゃんにひっぱられて、連れてこられて参加したけど、やってみるとすごくおもしろい」と言います。

 天瑠さんに、なぜ文弥人形を?と聞くと、「おねえちゃんが最初に教室に来ていて、本当は3年生でないと入れないけれど、こどもが足りないからと言われて、1年生から通い始めました。」
 文弥人形は楽しい、おもしろいという二人。
なにがおもしろいのか聞くと、海美さんは「いろんな人形があって、みんな顔も、動き方も違うところかな。」刀や傘など道具を使うのも楽しいと言います。 文弥人形は牛若丸や弁慶(べんけい)、巴御前(ともえごぜん)、小野姫(おののひめ)など、歴史上の悲劇のヒーローやヒロインたち。顔もキャラクターも違うため、「みんな動き方が違う」という海美さんの言葉も納得です。

 自分が人形の遣い手となって稽古を重ねるうちに、その人形の役柄を身近に感じ、そしてその役柄の物語を少しずつ理解することで、もっと興味が深まっていく。それも、文弥人形に「はまる」理由の一つかもしれません。

やってみると難しい! 一体の人形を一人で操る文弥人形

カメラを向けると、みんな人形を動かして見せてくれます。

 稽古を見ていると「動かしてみたら?」と穂風さんが人形を持ってきてくれました。おそるおそる触らせてもらうと、人形の中は短い棒が1本あるだけ。

 この胴串(どうぐし)という棒だけで、一体の人形を一人で操るのは、「突っ込み式」「一人遣(づか)い」と呼ばれる中世の頃の古い技法で、文弥人形の特徴です。

 いざ動かしてみようとするとこれが難しく、人形を、まるで生きているように動かすこどもたちのすごさを改めて感じます。

この表情、このポーズ。まるで生きているような巴御前。この人形の遣い手は天瑠さん。

小柄な天瑠さんは巴御前を自分の身長より高く持ち上げるようにして操ります。これであの動きと表情が出せることに驚かされます。

教室の最後を飾る「お披露目会(おひろめかい)」へ
 佐渡人形芝居親子教室の最終日。この日は、こどもたちがそれぞれ稽古してきた成果を発表する「お披露目会」です。

 穂風さんは「出世景清〜小野姫道行〜」の小野姫、天瑠さんは「ひらがな盛衰記」で巴御前を披露。こどもたちのリハーサルの様子から見学させてもらいました。

本番直前でもリラックスした雰囲気。みんな自分の文弥人形を見てもらうことを楽しんでいるよう。本番直前のリハーサルだけに、和田さんの指導にも熱が入ります。

稽古の成果なのか、リハーサルでは前回の稽古で見たときよりも、人形がもっとリアルに、本当に生きているようで思わずドキッとしてしまいます。

こどもたちの文弥人形を楽しみに、次々とお客さんがやってきました。いよいよ本番。

穂風さんの演目は、平家の残党・悪七兵衛影清(あくしちびょうえ かげきよ)と、小野姫と阿古屋(あこや)という二人の女性の、いわゆる「三角関係」から生じる悲劇を描いたもの。細やかな動きから、小野姫の複雑な心情が伝わってくるようです。

天瑠さんの演目。女武者としても有名な巴御前(右)が、鎌倉方の武将と果敢に戦う勇ましい様子が見どころ。スピーディーで迫力のある動きも文弥人形の特徴。この場面の素早く激しい動きは、見ていて思わず引き込まれるおもしろさがあります。

お披露目会の最後には、指導にあたった和田さんから、こどもたち一人一人に修了証書が手渡されました。

 文弥人形に夢中になるこどもたちを見ていて気づいたこと。
 それは、こどもたちが夢中になるのは、大人のように伝統芸能を「守るべき」という義務感としてではなく、純粋に「かっこいい」「おもしろい」という素直な憧れがあるからだということです。
 伝統芸能は、本来、そのようにして受け継がれてきたのではないでしょうか。

全て終わった後の「おやつタイム」。みんな本当にいい笑顔でした。

 そして、ただ置いてあるだけのときは「物」である人形が、自分の手によって、まるで生きているように豊かな表情や動きを見せる瞬間の驚き。こどもたちが、「文弥人形をやってみたい」という気持ちになるのもよく分かる気がしました。

 時代を超えて、文弥人形が持つ、本質的なエンターテインメントとしての楽しさ。それが今を生きるこどもたちを夢中にさせているのかもしれません。

取材協力/
(一財)佐渡文化財団 https://sado-bunka.or.jp
文弥人形 常磐座 https://tokiwazasado.wixsite.com/sado-tokiwaza

・佐渡人形芝居親子教室への問い合わせは(一財)佐渡文化財団まで

※この記事の取材は令和7年(2025)10月〜12月

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