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「彫り」と「塗り」の融合 “村上木彫堆朱(むらかみきぼりついしゅ)体験”

「彫り」と「塗り」の融合 “村上木彫堆朱(むらかみきぼりついしゅ)体験”

「村上木彫堆朱」は、漆器の一種で、江戸時代に藩主の奨励を受けて発展し、村上を代表する産業の一つになりました。木地(きじ、芯になる木工品)に花、鳥、山水などの図柄を彫刻し、漆を幾度も塗り重ねることで、味わい深く、美しい色合いを出します。村上では長らく、結婚式の引出物や記念品として贈られており、昭和51年(1976)には、国の「伝統的工芸品」に指定されました。最近はより多くの人に知ってもらおうと、大学生や若手クリエイターと組んで、若い感性を取り入れた製品作りにも取り組んでいます。

村上木彫堆朱会館のショールームに飾ってある「飾鉢」。堆朱は中国・唐の時代(619~907)に始まったとされ、その面影を残した図柄は多くの製品に採用されている。

日本には彫刻漆器がいくつかありますが、「村上木彫堆朱」にはどんな特長があるのでしょう。村上堆朱事業協同組合で事務局長を務める小杉和也さんに伺いました。「村上木彫堆朱は、使い込めば使い込むほどいいツヤが出て発色も良くなる漆器です。今、私が持っている茶筒も30年以上使っていますが、鮮やかな朱色をしているでしょ。机の上に置いてある茶筒は仕上がったばかりの茶筒ですが、朱の色が黒っぽい感じに見えますよね。それが使っていくうちに、だんだん赤みが増してツヤツヤになり、この茶筒のように鮮やかな朱色に変わっていくんです」

「塗り」で伝統工芸士の称号を持つ小杉さんは、江戸時代の初めから続く商家の14代目。「江戸時代は漆の卸小売をしておりましたが、村上で漆がたくさんとれたことがきっかけで事業を始めたと聞いています」

「漆と仲良く付き合うのはなかなか難しいんですよ。同じ漆でも天候によって乾き方、固まり方が毎日変化するんです。私の塗りの師匠も『漆とは常に仲良くしていかなければダメだぞ』とよく言っていました。とにかく塗師は天気をしっかり判断していかないと。また、村上木彫堆朱には6種類の技法がありますから、一通り塗れるようになるには10年はかかると思います」

村上木彫堆朱の製作過程が、わかりやすく説明されていた工程板。木地師、彫師、塗師の 技を融合して一つの製品に仕上げていく。

6種の技法とはどんなものでしょう。それぞれの技法を製品と一緒に小杉さんに紹介していただきました。「6種の技法の中でも最も代表的な技法は『堆朱』です。この技法で作られたのが、先ほどお見せした茶筒なんです。木地に彫刻を施して漆を塗り重ねた後、ツヤを消して仕上げていきます。ツヤを消して仕上げた方が、きれいなツヤになるんです。『ツヤ消し』は、漆を塗った後にツヤを消す作業ですが、全国でも村上木彫堆朱でしか行われていません。ツヤ消し後は、細部に彫刻(毛彫、けぼり)を施し、漆を摺り込んで完成させます。 塗りの前に彫刻をして漆を塗り重ねるこの技法こそ、村上木彫堆朱の真骨頂と言えましょう」

村上木彫堆朱の代表的な模様「牡丹唐草模様」の茶筒。使い込むことで、ツヤと明るみが増し、クッキリと模様が見えてくる。

堆朱以外の技法には、黒呂色漆で塗り上げる「堆黒(ついこく)」、朱漆の「艶消(つやけし)」後に上質の透ける漆を塗り重ね丁寧に研磨して飴色に仕上げる「朱溜塗(しゅだめぬり)」、上塗りに数種類の色漆を使う「色漆塗(いろうるしぬり)」、色漆塗に金箔を貼ってその上に色漆を塗り重ね、更に金箔を丁寧に研ぎ出す「金麿塗(きんまぬり)」があり、独特の美の世界を表現しています。

左上から時計回りに、堆黒の名刺盆、朱溜塗のなつめ、色漆塗のぐい呑、金麿塗の茶托。使う漆はすべて天然。混ぜる顔料の分量や種類の違いで作品に個性が出て来る。

「これだけ、特殊なんだよね」6番目の技法「三彩彫(さんさいぼり)」を紹介する際に小杉さんがつぶやきました。「一般的な堆朱と同じで漆を朱・黄・緑・黒の順に塗り重ねて、厚みを出してから彫り上げていく三彩彫は「塗ってから彫る」技法。そこが、(他の村上木彫堆朱の技法と)違う。漆を彫るんですよ。彫る深さで色合いを調整していくんだから、これは一発勝負の仕事ですよ。しっかりとした技術がないとできません」

日本画の繊細さをイメージさせる三彩彫の菓子器。黒地に緑、黄、朱、の3色が鮮やかに浮かび上がる。

「彫りが先、塗りが後」「使えばつかうほどツヤツヤ」・・・。奥深い村上木彫堆朱のことがわかってきたところで、いざ、「体験講座」で箸づくりに挑戦です。

「村上木彫堆朱を購入するなら、日常的に使う物から始めるのもいいですよ」(小杉さん)。村上堆朱事業協同組合では多くの人に村上木彫堆朱を知ってもらおうと「彫りの体験講座」を随時開催。低料金で「箸づくり」や「急須台づくり」が体験できる。 

体験講座では、実際に彫刻刀を使って箸に彫刻を施していきます。今回の先生は、川上健さん。新潟県の「伝統的工芸品プロモーションムービー」にも出演している50年近いキャリアを持つ職人さんです。

村上木彫堆朱会館2Fの教室で。机の上にあるタワシは、木地を彫った後に溝に入った木屑やゴミを取るのに使うそう。「一掃きで、きれいに取れて便利ですよ」と川上さん。

まずは、道具について教えていただきました。村上木彫堆朱では、技法や彫る文様・場所によって両刃や平刀、三角刀など様々な種類の彫刻刀を使います。 

刃が折れたり切れなくなると砥石で研いで再び使う。何度も何度も繰り返していくうちに、刃も柄も削られて短くなっていくので彫刻刀の長さはさまざま。真ん中の一番短いものは、10数年使ってきたもの。

川上さんは、彫刻刀の柄(え)を全てご自身で作っているそうです。「角材に溝を彫って、2/3位の長さの鋼(刃)をはめ込んで作ります。ある程度彫れるようになって技術が身につくと、やっぱり自分の手に合った彫刻刀の方がやりやすいんです。既製品よりも、自分で作った道具の方がしっくりきます」と川上さん。なるほど、納得です!

角材にサンドイッチにされた鋼。この後に木工用ボンドで固定し、柄の形を鉋(かんな)で整えて仕上げる。角ばった柄の彫刻刀も使っているうちに丸みを帯びて、次第に手に馴染んでくる。

「一番よく使うのは、『ウラジロ』と呼ばれる両刃の彫刻刀だね」と、川上さん。お正月の鏡餅の下に敷く葉っぱ「裏白」に似ていることから、村上ではそう呼ばれているのだそうです。

山型になっているウラジロの表側。裏側は平になっている。「表側は錆びていても大丈夫だけど、裏側は錆びているとダメなんだ」(川上さん)。

細い線を彫るときや、狭い部分をすき取るときは「三角刀」で。仕上げに細部を彫っていく「毛彫」の際にも使います。

ザクッ、ザクッ、ザクッ、漆が削られる音が響く。あっという間に椿の花の葉脈が彫られた。

体験講座では、あらかじめ赤い文字で模様が描かれた箸を使います。削り台に固定された箸は、アメリカヒバ。ヒバの木は柔らかいので、彫りやすく初心者向き。川上さんにお手本を見せていただきながら、彫りに挑戦していきます。

「下にマウスパッドを敷いて彫ると、削り台が滑らないんですよ」と川上さん。身のまわりの道具を上手く使いこなしてものづくりをする匠の知恵に脱帽。

ウラジロを使い、薬研彫り(やげんぼり)で彫っていきます。ウラジロは、表を親指に向けて、鉛筆を持つように持ちます。「これが基本です」と、川上さん。そして彫るときは、必ず空いている手の親指を彫刻刀の柄のところに添えておきます。「そうしないと、彫刻刀を引いたときに、パーンと(彫刻刀が)飛んでしまうことがあるんです。手を添えておけば、止まるから安心というわけです」 

薬研彫りは溝がV字型の掘り方。薬の材料を粉砕するときに使用するV字に凹んだ器(薬研)に形が似ていることから名付けられた。

「彫るときは、赤い線の少し外側に彫刻刀を立てて、グッと力を入れて手前に引きます。一線彫ったら、反対側に返して同じように彫ります。そうすることできれいなV字型の溝になるんです。箸の表面はアーチ型に湾曲しているので、最初はなかなか真っ直ぐに彫れませんが、これを繰り返して、赤線を全て彫っていきます」と川上さん。うまく彫れるコツを教えてください!

一彫りでしっかり彫れているから、木屑がきれいに剥がれてくる。

「ポイントは溝の形がVになること、斜めになることなんです。そのためには、ウラジロの入る角度がとても大切になってきます。私はそれを『寝せる』と言っています」(川上さん)。「寝せる」とは、「外側に向けて倒すこと」だと教えてくれました。なるほど、これなら今までと違ってスムーズに彫ることができます。裏面も彫り上げて、マイ箸を完成させますよぉ~。

一彫り、一彫り、慎重に。ときには、一気に。思い切りの良さも彫師には必要。

体験で彫ったお箸は、希望すれば後日漆で仕上げて送ってもらえます(有料)。自分で作ったお箸、普段使いで楽しみたいと思います。

体験講座で彫ったお箸が届いた。漆が施されて見違えるほどの仕上がりに。左上は体験講座の時にお土産に買ったぐい呑。

館内には、村上木彫堆朱の未来を担う若手が研修している部屋もあり、研修の様子を窓越しに見学することができます。そちらも伺ってみましょう。

「村上の塗りには、彫刻の溝を埋めずにむら無く塗るという技術があります」と、この道40年以上の塗りの匠・菅原豊さん。研修生たちへの期待から、指導にも熱がこもる。

ここでは、月曜日から金曜日まで3名の研修生たちが、村上木彫堆朱の技術を匠から実践形式で学んでいます。塗りは、「木固め(きがため)」「地塗り」「錆付け」「中塗り」「上塗り」の順に進み、16工程以上繰り返します。この日は、中塗りの作業をしていました。

手脂(てあぶら)がつくと変色などの品質の低下につながるので、「塗り」のときは、手袋をはめて作業する。

中塗りには「塗り」と「研ぎ」の2つの作業があり、塗った後に乾燥させてから研いでいきます。「塗っては研ぎ、塗っては研ぎ、これの繰り返し。刷毛で漆を塗った表面を砥石で研いで、塗りむらを防ぐわけです」と菅原さん。「ここは実践的に学べるから、毎日が充実しています」研修生になったのを機に新潟市から村上市に移住してきた石塚未央さんが教えてくれました。黙々と砥石を動かす姿は職人そのもの。熱い思いが伝わってきます。

研ぐ場所ごとに砥石を変え、砥石に水をつけて研いでいく。写真は1回目の様子。まだ黒い部分が残っている。

伝統の技と若い感覚の融合に積極的に取り組んでいる村上堆朱事業協同組合の方々。平成29年(2017)には長岡造形大学と連携してブックカバーを商品化しました。また、首都圏で活躍する若手クリエイターとのコラボで、普段使いの漆器ブランド「朱器」の展開をスタートさせました。これらは、会館のショールームで購入することができます。
3月には、「城下町村上町屋の人形さま巡り」が始まります。村上木彫堆朱の飾り棚がある部屋で人形さまが飾られているかもしれません。ぜひ村上に足を伸ばして、伝統の技に触れてみませんか。

新潟三越伊勢丹が展開する「越品」第1号にもなった朱器シリーズ。写真のぐい呑は、「三本の線を引くだけでどこにでも現れる」をコンセプトに活動している若手クリエイターのとんぼせんせいがデザインした。

関連リンク

村上堆朱事業協同組合
村上市松原町3-1-17 村上木彫堆朱会館
電話:0254-53-1745

城下町村上 町屋の人形さま巡り

 

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