体験リポート 第5回「遊んで学べる イヨボヤ会館」
村上地域は鮭のまちとして知られています。鮭が遡上する源流は豊かなブナの原生林。谷間から流れ出す清流と、砂や石に覆われた川底が鮭を守り育ててきました。
世界で初めて鮭の自然ふ化増殖に成功したこの土地の歴史に触れ、鮭の生態観測もできる「イヨボヤ会館」を訪れました。
三面川(みおもてがわ)の畔(ほとり)にある鮭公園(サーモンパーク)に足を踏み入れると、迫力ある鮭の立体看板が迎えてくれます。イヨボヤ会館です。
世界に先駆けて確立した鮭の自然ふ化技術
館長の奥村芳人さんに案内していただきました。
「イヨボヤとは村上の方言で鮭のことです。『イヨ』とは魚のことで、「イヨ」が転じて「ウオ(魚)」になったということです。『ボヤ』は村上の幼児が使う言葉で、これもまた魚のことを指します。村上では魚といえば鮭のことなんですよ」。
鮭のまちとして村上が繁栄するには長い道のりがありました。江戸時代、村上藩の財政を支えていたのは三面川の鮭漁の運上金(うんじょうきん)という租税の一種。ところが江戸時代の中期、鮭がほとんどとれなくなったのです。
「藩の村々を管理し鮭漁などを取り仕切る郷村役(さとむらやく)という役職にあった、青砥武平治(あおとぶへいじ)という村上藩士がいました。彼は鮭の生態について川漁師などから話を聞き、自分でも熱心に研究していたそうです。
そして、鮭が産卵のために生まれた川に帰って来る、母川回帰(ぼせんかいき)の習性の利用を考えました。三面川に鮭が安心して産卵できる分流「種川(たねがわ)」造りを村上藩に提案したのです。武平治が考えた鮭の保護増殖システムを「種川の制」といいます。」と奥村さん。
30年以上にも及ぶ川普請(かわぶしん ※河川の改修工事)の結果、鮭のまちはよみがえりました。明治17年(1884)には74万匹もの鮭が帰ってきたという記録もあるそうです。
鮭の自然ふ化増殖の試みは資源保護思想に基づく、世界に先駆けたものでした。先人達の想いと技術は、今も受け継がれています。
鮭の事業の成功は、村上に多くの鮭文化をもたらしました。
伝統的な漁法もそのひとつです。中でも名高いのが「居操り網漁(いぐりあみりょう)」。2艘の船に網を張り、もう1艘が水面を竿で叩き、鮭を追い込んで捕ります。
なんと細長い船でしょう。およそ幅85センチ×長さ7メートルだそうです。
「現在もこの船で居操り網漁が行われているんですよ。10月中旬から11月は、村上の風物詩を一目観ようと観光客も大勢訪れます。船の操作は難しく、立つだけでも技術が必要です。舵をとる人、網を投げる人の呼吸もあわせないといけない。後継者を養成し、保存会を立ち上げようと、いま動いています」。
また、村上に伝わる鮭料理の数は百種類以上とも言われ、頭の先から尻尾、内臓まで捨てるところはないとされています。奥村さんは村上生まれの村上育ち。
「美味しい食べ方はいろいろありますが、はらこ(イクラのこと)の醤油漬けをご飯にかけて食べるのが一番美味しいですね」。
代表的な伝統料理である塩引き鮭の製法を伝え残そうと、塩引きづくりの体験講習会「越後村上三ノ丸流鮭塩引き道場」も開催しています。(問合せ:イヨボヤ会館0254-52-7117)
イヨボヤ会館には、鮭のふ化の様子や、稚魚や親鮭を間近に観察できる施設がいくつかあります。
「鮭観察自然館」では全長50メートルの大地下室の観察窓から、三面川の分流である種川そのものをガラス越しに覗けます。
「秋には成魚となった鮭が、勇壮に遡上する姿が観られますよ」と奥村さん。
鮭の最後の大仕事、感動的な産卵シーンをガラス越しに観られることもあるそうです。
日によってヤマメやマス、カモやサギなども観られるとのこと。豊かな大自然の中で鮭は育まれてきたのだと、感じさせてくれます。
「生命」を感じる体験コーナー
こちらはイヨボヤ会館前の釣り体験特設プールです。
「魚を釣る時のびびっとくる引きの手応えを味わってほしい」と、9月23日(水・祝)までの土・日曜限定(9月21日から23日は特別開催)で設置されたお楽しみです。ニジマスの釣り体験ができます。
竿(エサ付き)を300円で借りて挑戦。小さいなお子さんでも手軽に体験でき、生きた魚の姿を間近で見ることができます。釣ったニジマスはリリース可能、持ち帰る場合は1匹100円です。
また、施設内にはドジョウと触れ合うタッチ水槽もあります。
イヨボヤ会館は村上の鮭をとおして、私たちの暮らしが川や海と共にあることを教えてくれます。
関連リンク
イヨボヤ会館
開館時間:9時~16時30分 休館日:12月28日~1月4日
村上の鮭文化については、新潟文化物語の特集でも紹介しています。
→File07 鮭の子、はらこ~村上の鮭文化~