file-128 地域に力を!地域から力を!~大学生×地域の挑戦(後編)
時間の経緯とともに、人の輪が広がっていく
新潟大学五十嵐キャンパスから徒歩約15分。学生向けアパートやおしゃれなショップも多い新潟市西区内野町は、新大生にとって身近なエリアであり、これまでも密接に関わってきました。ダブルホーム活動が加わり、ますます深まる関係性と広がる人の輪に迫ります。
川を輝かせる試行錯誤
新川を約3万球のLEDで埋め尽くす「新川ほたる」は、今では新潟市を代表する8月の風物詩。
内野町には毎年8月のお盆休みに合わせ約1万人を集客する、光のイベントがあります。それは「新川ほたる」。町内を流れる新川の水路橋と大萩橋間を約3万個のLED電球で飾るのです。すると、連なる輝きが水面に反射し、揺らぎ、幻想的な光景を生み出して、人々を魅了。このイベントを企画・運営しているのは、地域住民で組織された団体「夢アートうちの」。代表を務める長谷川酉雄(はせがわとりお)さんにお話を伺いました。
「直接的なきっかけは、平成13年(2001)に始まった、新潟大学教育学部の芸術系学科の学生たちが内野町をアート作品で飾る『内野deアート』というイベントです。私はボランティアとしてイベントをサポートしていました。ある年、新川をイルミネーションで飾ろうという案が出て、LED電球を葦に差し込んでみたり、プラスチックケースに入れたりして川に浮かべるなど、学生と一緒に試行錯誤。やがて、クリスマスツリー用の電飾をつなげて川の上に渡す、現在の方法に行きついたんです」
「新川ほたるの写真展、JR内野駅前のイルミネーションも行っています」/長谷川さん
その当時、長谷川さんは「内野町でみんなの思い出に残るイベントをやりたい」という切実な思いを抱いていました。「昭和時代にあった、灯篭(とうろう)流しや相撲大会、花火、盆踊りなどが徐々になくなり、お盆に帰省してもつまらないという声を聞くようになっていたからです。新川をイルミネーションで飾るのは、灯篭流しにも通じてお盆に家族で楽しむのにぴったり。これはいいぞと協力したわけです」
切り絵風にデザインした和紙を入れたペットボトルの灯篭。
「内野deアート」終了後は、ダブルホームの「ほたる」(今春「TSUBASA」から名称変更)が作業を手伝うことになり、徐々にその規模を拡大していきました。
「新川ほたるにとって、彼らは縁の下の力持ち的な存在。必要ですよ、元気をもらっています。なぜって、私たちの団体は15名全員がシニア。後継者が見つからない中、彼らは肉体的にはもちろん、精神的にも大きな支えになっています。私たちもまだまだ頑張りますが、彼らにももっと深く広く関わってほしい、内野町を一緒に盛り上げていきたいと思っています」
子どもたちを巻き込んで活動
生まれも育ちも内野町の荒木さん(左)と、内野町で暮らして2年の竹節さん(右)
内野町で活動する「ほたる」は、学生27名と教職員4名で構成されています。メンバーの、長野県出身で内野町に暮らす2年生の竹節香穂(たけふしかほ)さんと、生まれも育ちも内野町という2年生の荒木雅幸さんは、その活動をどのようにとらえているのでしょう。
竹節さんは、「内野町には町を盛り上げようとする人が多く、話を聞いているとこちらもアイデアが生まれ、前向きになれます。私たちは新川ほたるに合わせて、地域の小学生たちと作ったペットボトルの灯篭を飾っていますが、もっと数を増やしたらとアドバイスをいただき、今年度は増産予定です」と、張り切っています。
2つのホームが合同で、小学生向けイベント「新大ランド」を開催。
荒木さんは、「昨年度は別のホームと一緒に、小学生同士の交流を狙ったイベントを初開催し、長谷川さんたちと連携して、内野中学校の総合学習にも参加。年々、活動の幅が広がっています。こうした活動を通して、住民の方々に喜ばれるのがうれしいです。いろいろな人と会い、貴重な経験をしたことは大きな収穫。自分自身の新しい強みになっています。将来は、地域貢献のできる仕事に就きたいと思い始めています」と、思いを馳せます。
老舗豆腐店や酒蔵から名所・旧跡まで、みんなでブラリ。内野散策で町の魅力を再発見。
今後は、内野散策で得た情報をマップ制作やスタンプラリーなどに活用するなど、内野町に若者を呼び込むためのプランを検討中。また新しい取り組みが生まれるかもしれません。
プラスのスパイラル
ダブルホームでは地域活動だけを行っているのではありません。活動をスムーズかつ効果的に行うため、演習や会議、交流会などの行事があります。例えば、新加入生対象の大説明会、ホームを超えて話し合う学生会議、オープンキャンパスでの情報提供、さらには学生・教職員・地域住民・卒業生が一堂に集い、活動の総括と方向性について語り合うシンポジウムなど、それらを企画・運営するのも全て学生です。
これら学内活動では、学部学科、学年、ホームを超えた集団が形成されます。その中で、様々な個性や意見に出会い、刺激を受け、新たな一歩を踏み出す人たちもいます。
新加入生に17のホームを紹介する「ダブルホーム大説明会」は、毎年4月に開催。
「地域にあるものを活かし、より良くして人を呼び込むのが理想」/内藤さん
大説明会実行委員長の内藤大樹(ないとうだいき)さんは、先輩の活躍を見て「学生でもこんなことができるんだ」と、感動しました。そして、自分でも青年会議所や商工会など地域のいろいろな場に顔を出し、若者ならではの発想で課題解決ができないかと模索中です。
「人との出会いがダブルホームの一番の魅力。世界が広がりました」/原さん
ホーム間のコミュニケーションを促進する交流学生委員会の原彩峰(はらあやね)さんも、「今はいろいろなことに興味があるので、地域の講演会に参加し、本を読み、インプットに努めています。それをいつか地域でアウトプットし、街づくりに関わっていきたい」と、意欲を語ります。
「卒業後もシンポジウムに参加しています。ダブルホームに卒業なし」/遠藤さん
では、ダブルホームを経験して、社会で活躍している先輩は、地域や学内での経験をどのように感じているのでしょう。平成28年(2016)の卒業生で、現在は建設コンサルタントで道路設計に関わる遠藤雅和さんに、学生時代を振り返ってもらいました。
「大学の4年間=ダブルホームというくらい、私にとっては大切な居場所でした。山形県小国町での地域活動を通して、異世代の方々と触れ合い、考えを共有する中でコミュニケーション力を培うことができました。また、活動をまとめる役割を担うことで、リーダーシップやチームワーク力も身に付けられたと思います。学部での勉強とは違う面で成長させてもらいました。人との関係を築いていく力は、就活でも現在の仕事でも役立っています」
大学生が大学を飛び出して地域へ。生活者の視点で社会の課題を身近に感じ、その解決のため「この場所で自分にできることは何か」と創意工夫を始めるダブルホーム。地域では、大学生の発想やパワー、行動力を推進力として、祭りや行事をもう一度盛り上げようという気運が生まれます。人と人との出会いによる相乗効果、プラスのスパイラルが、今、新潟県の各地で起こり始めています。
掲載日:2019/5/30
■ 取材協力
長谷川酉雄さん/夢アートうちの 代表
荒木雅幸さん/新潟大学工学部2年 「ほたる」
竹節香穂さん/新潟大学人文学部2年 「ほたる」
内藤大樹さん/新潟大学経済学部3年 ダブルホーム大説明会実行委員長
原彩峰さん/新潟大学農学部2年 ダブルホーム交流学生委員会
遠藤雅和さん/平成28年度卒業 元「なごみ」・シンポジウム実行委員