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file-147 アニメの可能性にかけるまち、新潟市(後編)

  

新潟でアニメを学びアニメを作る


 映画会社や放送局などクライアントがいる東京でアニメを作るという常識を変えたのは、ふたつの偶然と新潟で盛り上がるアニメ愛。新旧二つのスタジオと、アニメーターを養成する専門学校で、新潟でアニメを作ることについて聞きました。

アニメは「人」を動かす

ひとつの偶然が道を拓いた

 「マンガとアニメの大きな違いは、マンガは一人でも描けるのに対し、アニメは描く・動かす・声や音を入れるなど、多くの工程とプロが必要なことです」と言うのは、新潟市文化政策課マンガ・アニメチームの武田朋実さんです。「これまで新潟市はマンガ・アニメを活用したまちづくりを進めてきましたが、今後は、企業誘致の部署とも連携しながら、働く場を提供できるように可能性を探っていきます。いつか、新潟でアニメの仕事をすることが『珍しい』と思われなくなるようにすること。それが私たちの目指すところです」

 

プロダクション I.G新潟スタジオ

プロダクション I.G新潟スタジオ

 制作を発注するクライアント、映画会社や放送局が東京にあるので、アニメ制作は東京で行うのが理にかなっています。が、昭和63年(1988)、『攻殻機動隊』シリーズ、『黒子のバスケ』シリーズなどで知られるプロダクション I.Gが東京から新潟に進出。この例にない動きについて、その核となった⼩村⽅宏治さんに伺いました。
 「東京でアニメーターをしていたのですが、一身上の都合により地元の新潟市に帰ることになったんです。アニメーターの仕事は好きだから続けたい。けれど、地方でひとりでやっていくのは難しいのでは」などと、思い悩みながら退職の意向をプロダクション I.Gの社⻑に伝えたところ、「分室を作るから、新潟でやってみないか」という提案が。
 「アニメーターをあきらめなくていいのはありがたいと思いました。最初は自分ひとりでしたが、新聞の折込チラシで動画スタッフの募集を行い、未経験の5名を採⽤。新人への技術教育をしながら新潟での仕事を始めました」。その後は、東京本社での採⽤時に新潟勤務志望者を募ったり、また、新潟市内にアニメ専⾨学校ができたりしたこともあり、採⽤は徐々に安定。新潟スタジオ設立33年⽬を迎える令和3年(2021)現在、演出・原画・作画・動画などを担うスタッフが総勢27名在籍しています。

 

 新潟でのアニメ制作のデメリットは、12時間のタイムラグ。「デジタル化が進んでも紙の質感はまだまだ重要で、作業物のやりとりは宅配便を使っても12時間を要します。逆に言えば、日本だからこそ12時間で済むとも言えます」。⼀⽅、メリットは、まず家賃や物価が安い、次に⾃然が豊かなこと。「実際に海や山に触れた体感を作品に還元するのは、クリエーターには⼤切なことだと思います」と⼩村⽅さん。そして、地元で⼈材が養成されていることも大きなプラスになっています。
 今後、⽬指すことを伺いました。「テレビシリーズの1話の中で、演出、作画、原画、動画を新潟スタジオで完結できれば、スタッフのモチベーションが上がり、クオリティも保てるので、これを増やしていきたいですね。そして将来的には、新潟にゆかりのある作品、新潟を舞台とした作品作りに関われれば、と思っています」
 一人のアニメーターの故郷が新潟市だったという「偶然」が開いた新しい道は、人を動かし、人を集めています。

 

『銀河英雄伝説 Die Neue These』

I.G新潟の参加最新作『銀河英雄伝説 Die Neue These』/©田中芳樹/松竹・Production I.G

 

求められる人材を育てる

アニメ作品の素材

学生たちが授業で作成したアニメ作品の素材

授業風景

授業風景

 日本アニメ・マンガ専門学校が設立されたのは、平成12年(2000)です。「当時はマンガが主流でしたが、現在は、新潟市内にも採用先となるスタジオができ、またアニメ業界の人材需要が高いことから、アニメーターを目指す学生が増えています」というのは、同校教務部の新井田耕一さんです。「学生の半数以上は県内出身ですが、近隣県からも『東京に行くのは不安』『都会は生活費が高くて行けない』、中には『新潟市にあるスタジオに入りたいから』などの理由で当校を選んだという学生もいます」
 「ここでの2年間は、絵を描くことが自分にとって趣味か職業かを突き詰めるための時間だと私は思っています。というのも、職業となれば、技術はもちろん、提案力やコミュニケーション力などの『人間力』も求められる厳しい世界だからです。グループワークでアニメ制作の企画から作画、動画、仕上げ、編集までを一貫して経験する中で、自分は何に向いているか、どういう貢献ができるかを掘り下げ、進路に活かしてほしいと思っています」
 教室では1年生がそれぞれの課題に取り組んでいました。「小1で『ドラゴンボール』を見て以来、アニメーターを目指してきました」「今、新潟のデジタルグランプリに出品する作品を制作中です」「新潟で学べるから、アニメーターになる夢をあきらめずにいられます」と、次世代のアニメーターを目指して学んでいます。

 

もう一つの偶然が新展開を生む

諸橋さん

初めにアニメの製作工程のレクチャーを。一つのシーンが完成するまでにいくつもの作業が必要で、沢山の人が関わって作れるのがアニメの特長だ

紙芝居 表紙

柏崎アニメスタジオでは、一般の方への作画指導を行う「描き方ジム」も開講中

諸橋さんと紙芝居

令和3年(2021)7月に公開したオリジナルアニメ『とびだせ!柏崎』

 アニメスタジオのニューカマーは、令和元年(2019)5月にオープンした柏崎アニメスタジオです。東京でアニメスタジオを経営する荒尾哲也さんがこの地を選んだのも「偶然」でした。「アニメーターになりたいと思う人全員が東京に来られるとは限らない。地方に熱い情熱を持つ人がきっといるはず。ならば、探しに行こうと――拠点を探していました」
 新潟がマンガに力を入れていると知り、まず新潟市へ。さらに自然あふれる環境を求めて柏崎へ。「温かな柏崎マインドに惹かれ、ここに決めました」
 その後、東京から長澤達也さんと牧野太輔さんが赴任し、今、柏崎で作画を担当しています。「アニメーターは結果がすべてという職業。その厳しさは同じでも、柏崎では生活のストレスがないです。環境だけじゃなく、周りの人たちからも癒しをもらっています」と、長澤さんが柏崎で働くメリットを挙げると、牧野さんも「仕事も生活も心配したほど不便ではありません。競うように仕事をしていた東京より、焦ることがなくなり、協力しあう気持ちが大きくなりました」と、にっこり。
 さらに、予想していなかったメリットが「向こうからやってきた」と荒尾さん。「地域の祭りやイベントへの参加、小学校での特別授業の依頼など、東京では起こらないことが起きているんです。アニメの制作会社は地方では珍しいので、興味を持ってもらえ、出会いが新たな仕事に結びついています。『とびだせ!柏崎』という地域企業のPR動画を作りましたが、身近な人のための地域密着型アニメをもっと作っていけたらと思っています」

 

 アニメのまち・新潟は2021年秋、3つのアニメ企画展で盛り上がります。新潟市マンガ・アニメ情報館では、マンガからアニメ、舞台へと広がった「文豪ストレイドッグス」の初の大規模展示会。新潟市新津美術館では、鉄腕アトムからガンダム、イデオン、最新作まで50年を超える仕事の全貌を紹介する企画展「富野由悠季の世界」。そして、長岡市にある新潟県立近代美術館では、「高畑勲展-日本のアニメーションに遺したもの」。初監督作品「太陽の王子 ホルスの大冒険」から遺作「かぐや姫の物語」までの膨大な資料、多くのクリエーターとの共同制作の軌跡を通して、アニメ作りの理論や技法、そして高畑監督の哲学を明らかにしようとする内容です。
 これらのイベントでは、完成した作品では知ることのできない、様々なアイデアや試行錯誤、努力、クリエーターの肉声を感じることができ、アニメの新しい魅力にふれるチャンスかもしれません。

 

文豪ストレイドックス大博覧会
文豪ストレイドックス大博覧会

Ⓒ朝霧カフカ・春河35/KADOKAWA/2019 文豪ストレイドッグス製作委員会

富野由悠季の世界
富野由悠季の世界

Ⓒ手塚プロダクション・東北新社 Ⓒ東北新社 Ⓒサンライズ Ⓒ創通・サンライズ Ⓒサンライズ・バンダイビジュアル・バンダイチャンネル ⒸSUNRISE・BV・WOWOW Ⓒオフィス アイ

高畑勲展-日本のアニメーションに遺したもの
高畑勲展-日本のアニメーションに遺したもの

Ⓒ2013 畑事務所・Studio Ghibli・NDHDMTK

 

掲載日:2021/9/13

 

■ 取材協力
武田朋実さん/新潟市文化政策課マンガ・アニメチーム
小村方宏治さん/プロダクション I.G 作画課 新潟スタジオ
新井田耕一さん/日本アニメ・マンガ専門学校 教務部 部長
荒尾哲也さん/スタジオガッツグループ 柏崎アニメスタジオ 代表
長澤達也さん・牧野太輔さん/スタジオガッツグループ 柏崎アニメスタジオ アニメーター

■ info
【柏崎産アニメ】とびだせ!柏崎【大きなカブワザキ編】(YouTube)

※施設の開館情報については、各施設にご確認ください。

 

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