file-155 新潟で縄文のココロに触れる(後編)
新潟は縄文愛にあふれている
「新潟の縄文」といえば国宝の火焔型土器が有名ですが、実は、それ以外にも貴重な土器や土偶が数多く発見されています。さらに、縄文をモチーフにした和菓子やかわいいグッズも誕生。博物館や体験施設だけでなく、ショップや老舗和菓子店でも縄文に触れられるのです。
約4000年前の鮮やかな赤を見る
「豊かそうに見えても、縄文時代では食料の確保や暮らしは大変だったはずです。それでも石や木を上手に利用して生きている縄文の人々に愛おしさを感じます」/田海さん
下越地域初となる6施設合同の企画展「地味にすごい!下越の縄文時代」。それぞれの地域でしか出土しない品もあり、縄文の暮らしの多様性が感じられる。
南北に長い新潟県は、京都に近い南西部から上越・中越・下越と3つのエリアに分けられます。縄文土器として有名な火焔型土器は、中越地域の十日町市や長岡市で多く発見されているので、「新潟の縄文」と言えばそちらに注目が集まりがちでした。しかし、実は下越地域にも個性的な遺跡が数多く見つかっています。そこで、令和4年(2022)に下越地域の6つの施設が連携して企画展を開催するという初めての試みを行うことにしました。タイトルは「地味にすごい! 下越の縄文時代」。第一会場の「新潟県埋蔵文化財センター」(新潟市秋葉区)で企画展を担当する田海義正さんに伺いました。
「下越では、江戸時代以降に開墾された水田や潟の下など、かなり深いところから発掘されることが多いので、台地上の遺跡ではなくなってしまう木製のものが腐らずに見つかるんです。たとえば、建物の柱や木製の器や装飾品などが多く出土しています。地下水でパックされた状態だから、漆器は色鮮やかなまま。きれいですよ」
今回の企画展で特に目を引くのが、未着色の漆を塗った黒色の木製容器と、ベンガラや水銀朱を混ぜ込んだ赤色の漆器。この2点は胎内市分谷地A遺跡で発掘されたもので、平成30年(2018)にはパリの日本文化会館で展示され注目を集めました。
「世界で認められたもの、学術的にも価値のあるものも多く展示しているので、決して『地味』ではないんですけどね。下越の6会場を巡って、縄文時代の生活に思いを馳せて『すごさ』を感じてもらえたらと思います」と、田海さんはにっこり。生活の中で使っていたものが多いので、縄文時代の人々をぐっと身近に感じられる合同企画展は、令和4年(2022)9月25日まで、「新潟県埋蔵文化財センター」、「新潟市文化財センター」(新潟市西区)、「縄文の里・朝日」(村上市)、「阿賀野市歴史民俗資料館」(阿賀野市)、「胎内市美術館」(胎内市)、そして「阿賀町郷土資料館」(東蒲原郡阿賀町)で開催されています。
これほど完全な形での出土は貴重。水差し形の赤い漆器/胎内市所蔵(左)、縄文時代後期にはデザイン性の高い土器も登場/村上市所蔵(中央)、全国でも珍しい靴型の土器/阿賀町郷土資料館所蔵(右)
縄文にインスパイアされた和菓子
土器の破片をかたどった干菓子「悠なる縄文 土器」(左)と、ドングリを粉にして加えた干菓子に土偶のデザインをプレスした「悠なる縄文 土偶」/越乃雪本舗大和屋
起き上がりこぼしのように揺れる「縄文ゆらゆら人形」(左)。火焔型土器の精密なスキャンデータをクリスタスの中に再現した「クリスタルキューブ」(右)/道の駅クロステン
人面付土器や火焔型土器、環状列石など縄文の出土品や遺構のトレカは枚数限定で制作。「トレカを見ると本物を見に行きたくなる」などの反応に、追加制作も検討中/縄文の里・朝日
縄文の土器や土偶はデザインのモチーフとしても登場しています。日本で初めて火焔土器が発掘された長岡市では、創業240余年の老舗和菓子店「越乃雪本舗大和屋」が、土器の破片をかたどった干菓子を発売しています。お菓子の美しさと和三盆を使った上品な甘さが相まって、地元ではお茶会に出されることもある人気の品です。
国宝・火焔型土器が出土した十日町市では、「道の駅クロステン十日町」に土器にまつわるアイテムが並んでいます。土器をゆるキャラのように表したちりめん製の人形、土器柄に染めた手ぬぐい、四角柱のクリスタルの中に国宝の土器が浮かんでいるように見えるものまで幅広い品々がずらり。観光のお土産として好評です。
さらにトレーディングカードも登場しました。制作したのは、縄文体験のできる施設「縄文の里・朝日」です。「私たちの活動を支えてくれる方々に感謝の気持ちを表したい」と、地元で出土された人面付き土器などをデザインしたカードをSNSのフォロワーへのプレゼント用に企画しました。予想を超える応募にカードはすぐになくなってしまい、今、新たなカード制作を検討中です。
縄文のココロを追体験するイベント
十日町市出土の本物の土器を手本にしながら、テラコッタに川砂を混ぜた粘土で形を作り、2週間乾かした後に野焼きする縄文土器づくり体験/伊乎乃(いおの)の里・縄文サポートクラブ
「子どもたちに縄文時代に興味を持ってほしいという意図で企画しました。まずは『楽しい』から入って、学びにつなげてもらいたいです」/伊乎乃(いおの)の里・縄文サポートクラブ 阿部さん
不思議なデザインの土器や愛らしい土偶、丸みを帯びた石斧は、見る側の想像力を刺激し、触れたい、使ってみたいと思わせる――新潟県には、そうした希望が叶えられる場所が各地にあります。
「新潟県埋蔵文化財センター」では、ミニチュア版土器づくりを子どもだけでなく大人向けにも行っています。「伊乎乃(いおの)の里・縄文サポートクラブ」(十日町市)が行う、土器を形作って野焼きするイベントには、県内外から参加者が集まります。ベンガラ染めや火焔型土器チョコレートづくりなど気軽に挑戦できるイベントには、子どもたちも多く集まります。「農と縄文の体験実習館 なじょもん」(津南町)では、陶芸・木彫り・ポップアート・音楽など多彩な分野のアーティストたちが縄文の人々の心を表現する新しい取り組みも。いずれも難しい講義や解説ではなく、楽しみながら縄文を感じ、はるか遠い祖先の知恵や工夫を発見する参加型のイベントです。
新潟県内各地に残る縄文の跡をたどって「見て」「触れて」「作って」「食べて」「楽しんで」、縄文のココロに思いを馳せてみませんか。愛すべき縄文の姿や、まねてみたい暮らし方が見つかるかもしれません。
掲載日:2022/8/5
■ 取材協力
田海義正さん/新潟県埋蔵文化財センター
越乃雪本舗大和屋
道の駅クロステン十日町
縄文の里・朝日
伊乎乃(いおの)の里・縄文サポートクラブ
農と縄文の体験実習館 なじょもん
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