file-56 新潟で楽しむアートイベント:後編~ アートがつなぐ人と人
アートがつなぐ人と人
地元の農家と大学生のつながり ~わらアートまつり~
米どころ新潟ならではの「稲わら」を活用したアート。新潟市西蒲区の上堰潟(うわせきがた)公園に出現する「わらアートまつり」は、今年で5回目を迎える。稲わらで作った高さ3メートルの巨大な「ゴリラ」や「猫」などのオブジェ(わらアート)が訪れた人を驚かせている。アートによる地域おこしの一環として、武蔵野美術大学(東京)の学生と地元の農家、ボランティアが協働で進めてきた。作品の骨組みとなる、稲わらで編んだロープ状の「わらとば」は、3日間で約700メートルを仕上げる。この昔ながらの技術は、地元の農家に手伝ってもらい学生たちと一緒に制作。その合間に農家のお母さんから手作り料理の差し入れをしてもらうなど交流を深めてきた。イベント担当の西蒲区役所産業観光課の宮川明さんは「ただ作品を作るだけではなく、そこには人と人との交流があります。以前、わらアートまつりに関わった学生が、大学卒業後も稲刈りや田植えを手伝いに来ることもあります」。参加した学生たちと地元の農家との温かい交流が今も続いているのだとか。西蒲区の上堰潟公園には大小さまざまなオブジェが並んでいる。
ゴリラのオブジェ(2011年)
前年に西蒲区で収穫した稲わらを活用。アート作品を解体したあとは、稲わらを農家へ渡し、柿の栽培に活用している。
猫のオブジェ(2011年)
2011年の開催では展示期間中、約3万人もの人が訪れた、米どころ新潟ならではのアートイベント。使用するわらの量は、なんと田んぼ約5000平米分。
▷ わらアートまつり(作品のみ展示)
開催日:終了
場 所:上堰潟公園(新潟市西蒲区松野尾1番地)
問 合:新潟市西蒲区役所産業観光課
TEL :0256-72-8454
商店街の活性化に学生の力を ~ムーンナイト・フェスティバル~
佐渡市両津夷(えびす)の商店街を盛り上げようと新潟県立大学の学生が企画した「ムーンナイト・フェスティバル」が8月25日、26日に開催された。今年で2回目、昨年よりも規模を拡大し、学生が商店街と協力して「エコ」をテーマに活性化を図った。佐渡の廃材を利用して作ったランプシェードにLEDを灯したり、テーブルに日光を蓄えて夜に発光する蓄光剤を塗って幻想的な夜を演出。また、学生が考案した佐渡の地酒を使った「日本酒カクテル」も登場し、多くの人たちが訪れ楽しんだ。両津夷商店街は高齢化や後継者不足などで、店舗数が少なくなり、両津商工会が県立大学に依頼したことがきっかけで、昨年からイベントがスタート。初めての試みだったものの「街がにぎわった」と商店街から好評を得た。両津商工会の間 康さんは「学生たちにはこのイベントだけでなく、通年で佐渡に来てもらえたら嬉しいですね。若い人の考えるパワーが新しい風を吹かせてくれるはず」と、学生たちに期待するものは大きい。イベント終了後、佐渡に遊びに来る学生もいるとか。授業の一環として始まったばかりのアートイベントだが、その街で、街の人と触れ合うことで、ゆっくりと交流が深まっている。
商店街には佐渡の廃材を組み合わせた直径30センチのランプシェードにLEDを灯し、幻想的にライトアップした。
初開催の昨年のメーン会場「竹のパビリオン」。佐渡産の竹を使い、麻縄による伝統的な結び方で骨組みを制作し、屋根は人工のかやで覆った。この中で舞囃子の披露やシンポジウムを開催した。
file-56 新潟で楽しむアートイベント:後編~ 作家とふれあうアートイベント
作家とふれあうアートイベント
「浜メグリ」で出会うアーティストたち
新潟市西蒲区の海沿いにある角田山の麓(ふもと)の越前浜、角田浜、五ケ浜集落で、春と秋に開催されている「浜メグリ」は地域密着型のアートイベント。この地域に暮らしながら創作活動している作家が、自宅や工房を開放して一斉に展示会を開催する。美術館やギャラリーの展示会とは違い、普段見ることのできない作家の自宅や工房を開放するため、のんびりとした雰囲気がそこにはある。「浜メグリ」のきっかけは、越前浜に住む作家が染物とガラス作品、陶芸の展示を2カ所で同時開催したとき、好評だったために同地区に住む作家に「一緒にやりませんか?」と声をかけたことだった。第1回目は2008年4月に9つの工房、4つのカフェでスタートし、今年で5年目、10回目を数える。2012年春の開催では、16会場で23組が出展した。開催当初から関わっている同イベント代表の吉岡謙治さんも陶芸家として、自宅の部屋と工房を開放している。「最初は“自分のものを作って売る”という気持ちが強かったかもしれません。でも、今は“売りたい”よりものんびりと楽しんでいます。自宅なのでお客さんとゆっくり話ができますし、新しい人とも出会える。毎回、来てくれる人もいます。まるで半年に1回の同窓会のようです」。吉岡さんは新潟市中央区の出身で、5年前に越前浜に引っ越してきた。いわば、よそ者。イベント当初は住民から苦言を呈されることもあったが、回数を重ねるごとに、住民も家を開放したり、参加してくれるようになった。「僕は新潟市の出身ですが、越前浜のことを知りませんでした。こんなにいい場所があることを浜メグリで知ってもらいたい」と吉岡さんは言う。同イベントに参加しているガラス作家・塚原雅治さんはこう話す。「街全体がギャラリーになっています。街を歩いて、いろいろなアーティストと触れあうことで、感じられるものがあると思います」。海の香りがする浜をめぐり、アーティストの工房で、アーティストと触れあってみてはいかがだろうか。
「浜メグリ」の会場に近い越前浜。地名の由来は戦国の武将・朝倉義景の家臣が越前(現:福井県)から逃れ、この地で村を再興したためと言われている。
暖かいオレンジ色と金箔が雰囲気のガラス作家・塚原雅治さんの作品。
1200℃に溶けたガラスを竿にまきとり作り上げる。
▷ 浜メグリ
開催日:終了
場 所:新潟市西蒲区角田地区
問 合:浜メグリ事務局
(角田地区コミュニティ協議会内)
Mail:hamameguri@kakuda-c.sakura.ne.jp
TEL:090-1754-3744(吉岡)
file-56 新潟で楽しむアートイベント:後編~ 新潟のアートイベント散策!
新潟のアートイベント散策!
アートで街を元気に、街を誇れるように ~AKARIBA 2012 秋~
加茂市では、9月22日・23日に、あかりをテーマにしたイベント「AKARIBA 2012秋」が開催される。和紙で作った灯籠が加茂山公園から周辺商店街をオレンジ色に彩るあかりの祭典。町おこしの一環で加茂青年会議所が主催し今年で6年目。代表を務める板谷一弘さんは「北越の小京都」と呼ばれる加茂市を盛り上げるために奔走中だ。イベントに先駆けて、8月19日、26日の2日間ワークショップが開催され、子どもも大人も含めたくさんの人が参加し、イベント当日に灯すあかりを制作した。「このイベントはあかりをみんなの手で作るのがポイント。市民のみなさんも小京都ということを意識することがなくなってきている気がします。だからこそ、子どもたちも含めて、この街が小京都である所以や、この街を誇れるようにしたい」と言う。アートで街を楽しくする人がいて、それを楽しむ人が集まる。アートだけで街が再生することは難しいかもしれないが、忘れられた地域の魅力を再発見したり、そこに住む人たちの絆をより強く結び付けたりと、地域再生のきっかけになるかもしれない。
今年6月9日に、湯田上温泉の東龍寺にて開催された「AKARIBA in 湯田上温泉」は、田上町の名産のタケノコをイメージして、「竹」で作った竹あかりが登場。このほか、和紙をちぎって貼り合わせた丸和紙あかりも配置された。
昨年開催された「AKARIBA 2011」では、参加した人に作ってもらった折り紙を灯籠に張り付けた。折り紙は約3万枚を使用し、色とりどりの灯籠が披露された。
▷ AKARIBA 2012 秋
開催日:下記URLで確認してください
場 所:加茂市青海神社周辺
料 金:無料
問 合:(社)加茂青年会議所
TEL:0256-53-3241
URL :http://www.niigata-bunkasai.jp/event/?p=299
もっともっと、県内のアートイベント
例年開催されている「新潟文化祭」でも、アートに注目している。その一環として開催されるのが、“地域を元気にするアート”を考える「アートシンポジウム」だ。大学在学中にダンボール作品で脚光を浴び、国内外で大活躍のアーティスト・日比野克彦氏が「アートの持つチカラ」について基調講演を行う。さらに、岩室温泉と武蔵野美術大学の産官学共同プロジェクト「アートサイト岩室温泉」や、花がテーマの作品を鑑賞しながら城下町・高田の道を歩くイベント「城下町高田花ロード」など、県内各地で行われるイベントの事例報告、パネルディスカッションも開催。会場となる長岡造形大学では、「アート関連イベントPRコーナー」として、県内のアートイベントの活動を紹介するコーナーも設置。「こどもものづくり大学校」の作品、学生の作品も展示する。大きなイベントから手作りの小さなイベントまで、県内の各種アートイベントを散策するきっかけに参加してみるのはいかがだろうか。
「アートシンポジウム」の事例として報告される「アートサイト岩室温泉」。市民と協働し作品展示のほか、イベントを実施し地域の活性化と観光振興を図った。
▷ アートシンポジウム―アートでつながる。アートで地域を元気にする―
開催日:終了
場 所:長岡造形大学 「大講義室」
長岡市千秋4-197
時 間:14:00~16:30(受付開始 13:30)
料 金:無料 ※事前申し込みによる入場整理券が必要です。
問 合:新潟県文化振興課
TEL :025-280-5139(平日8:30~17:15)
URL :http://www.niigata-bunkasai.jp/event/?p=299
▷ アート関連イベントPRコーナー
開催日:終了
場 所:長岡造形大学 1階ギャラリーほか
時 間:9:30~16:30
▷ 公式HP
・両津商工会 http://www.sado.co.jp/rsk/
・新潟文化祭 http://www.niigata-bunkasai.jp/
file-56 新潟で楽しむアートイベント:後編 県立図書館おすすめ関連書籍
県立図書館おすすめ関連書籍
「もっと詳しく知りたい!」、「じっくり読みたい!」という方、こちらの関連書籍はいかがでしょうか。以下で紹介しました書籍は、新潟県立図書館で読むことができます。貸し出しも可能です。ぜひ、県立図書館へ足をお運び下さい。
▷『水と土の芸術祭2012ガイドブック』
(水と土の芸術祭実行委員会発行 2012年)請求記号:N708/O24
▷『水と土の芸術祭2012ガイドブック』
(美術出版社発行 2012年)請求記号:N709/D14/12
こちらの2冊は、今年県内で開催される大規模な芸術祭のガイドブックです。作品紹介のほか、会場までの交通アクセス、作品所在地の地図、宿泊情報などが載っていますので、芸術祭の全容を知りたいときや実際に足を運ぶとき等にご覧になってみてはいかがでしょうか。
▷『大地の芸術祭 ディレクタ-ズ・カット 現代美術がムラを変えた』
(北川フラム/著 角川学芸出版 2010年)請求記号:N709/Ki63
十日町市と津南町からなる越後妻有地域で、3年に1度開催される「大地の芸術祭」。2000年の第1回から数えて5回目となるこの芸術祭が、今年開催されました。
本書は「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の総合ディレクターを務めてきた北川フラム氏が、第1回の準備段階から第4回までの取組をまとめた内容です。越後妻有地域と芸術祭についての紹介、アーティストや地域住民、サポーター等との関わりについて書かれています。
▷『現代アート事典 モダンからコンテンポラリ-まで・・・世界と日本の現代美術用語集』
(美術手帖/編 美術出版社2009年)請求記号:702/B42
本書の内容は大きく「準備体操編」と「本編」に分かれています。「準備体操編」では「モダンアートから現代アートへの入門講座」と題し、美術の歴史についてQ&A形式で説明されています。「本編」では、40のテーマごとにキーワードとその解説、さらに詳しく知りたいときに参考となる本が紹介されています。カラーページで写真やイラストも多く、解説もわかりやすいため現代アートの入門書として役に立つ内容です。
▷『ビエンナーレの現在 美術をめぐるコミュニティの可能性』
(暮沢剛巳、難波祐子/編著 青弓社 2008年)請求記号:706/Ku59
本書は、2006年から発足したキュレーターや美術評論家、社会学者などが集まって組織された「国際展の文化政治学」という研究会の研究発表をもとにまとめられた内容です。「ビエンナーレ」を「周期的に開催される大規模な国際展の総称」の意味で用い、周期の違う「トリエンナーレ」についても取り上げています。「越後妻有アートトリエンナーレ」や「横浜トリエンナーレ」、「アジア太平洋トリエンナーレ」、「北九州ビエンナーレ」についてさまざまな視点から論じた内容となっています。
ご不明の点がありましたら、こちらへお問い合わせください。
(025)284-6001(代表)
(025)284-6824(貸出延長・調査相談)
新潟県立図書館 http://www.pref-lib.niigata.niigata.jp/