日本海に面する新潟県。その海岸線の総延長は635.6kmと長く、暮らしやレジャー、そして文化が、海と密接に関わっている地域がたくさんあります。上越市直江津周辺もそんな地域の一つ。江戸時代の地引網漁やサメ漁の記録も残り、現在は海水浴や釣りスポットとして広く親しまれています。
国道8号線沿い、直江津海水浴場からほど近い虫生岩戸(むしゅういわと)地区にある上越市海洋フィッシングセンターは、釣り初心者が気軽に釣りの楽しみを体感できる施設です。釣りの道具をリーズナブルに借りて、沖合100mほど日本海に張り出した全長185mもの桟橋の上で釣りを楽しむことができます。
「この施設は昭和58年に完成して以来、上越市民の休日の余暇を充実させることを目的に営業しています」と説明してくださったのは、運営を担当している株式会社きらめきの阿部秀一さん。
こちらのフィッシングセンターは4月から11月の土日を中心に営業(夏休み期間中は連日営業)しており、子どもから大人まで幅広い年代に親しまれています。
センターで釣れる魚種はさまざま。通年で釣れるアジやサバ、カサゴやソイ、サヨリやウミタナゴなどの他、腕を上げればイカやクロダイ、シマダイが釣れることも。
阿部さんが「特に何も準備せずに手ぶらで来て釣りができるのがこの施設の良さですね。『釣りをしてみたい』と思ったりご家族が言ったりした時に、試しにこのフィッシングセンターで釣りをしてみて、ハマるようであれば徐々に道具を揃えていくとよいのではないでしょうか」というように、センターの利用料はリーズナブル。入場料が小学生以上150円(幼児無料)、貸し竿200円、エサは250円で販売しており、道具やエサの持ち込みもOKです。
服装は動きやすい格好であれば、特別な準備は不要。足場が網状で真下は大海原なので履き物はサンダルは控えて、スニーカーや長靴がおすすめです。また日除けになる設備がないので、真夏時は帽子や日焼け止めの準備もしておきましょう。フィッシングセンターでは子ども用のライフジャケットも用意してあります。
海岸沿いに山がそびえており、この環境が海のコンディションを大きく左右します。北風が吹くと波が立つ一方で、南風が吹いていると山で風が遮られるので凪の状態に。
釣り初心者の筆者。ちゃんと釣れるのか緊張のチャレンジで、まずは道具を持って桟橋へ。通路を渡り浜から約100mも離れると視界には果てしない大海原のパノラマビューが広がり、遠くには佐渡島がうっすらと見えます。夕焼けも非常に美しいとのこと。
そこで早速、現地スタッフの渡邉岩夫さんと可児利道さんにレクチャーしていただきつつ、釣りの準備を行います。
最初はイソメの人工エサを釣り針にくくりつけて、緊張の第一投。
リールを全開にして重りとエサをつけた釣り糸を水深約2m弱の海に沈めます。海底に届いたら、糸が張る程度に巻き上げて、止めたり少し動かしてみたりしながら、じっと魚が食いつくのを待ちます。
15分ほど垂らしてみても食いついた形跡がなかったので、エサを人工のイソメからイカの塩辛に変更して再トライしてみることにしました。魚は匂いが強いものに食いつきがよいそうです。
すると数分のうちに明らかに手応えが。釣り竿の先がブルブルブルッと小刻みに震えたらそれが魚が食いついた合図です。
確かな手応えを感じながら急いでリールを回していくと、海面から出てきた釣り針の先に10cmほどのコロっとした活きのいい魚の姿が確認できました。
「これはクサフグですね」と教えてくれた渡邉さん。歯で糸を噛み切るなど釣り人泣かせの魚だそうです。
一度釣れると一気に面白くなるのが釣り。さあもっと釣るぞ!と、そそくさと釣り糸を垂らしました。「遠くに飛ばさなくても、もうここが海の真上なので、落とすような感覚でいいですよ」と渡邉さん。無心で海の中に想いを巡らせつつ、果てしなく真っ青な海と空、それを隔てる水平線を眺めていると、時間が経つのを忘れそうなほどの気持ちよさ。潮の香りと波の音の中、ゆっくりと流れる時間を味わうことも、釣りの醍醐味の一つなのかもしれません。
エサの匂いが重要ということで、長時間海に沈めっぱなしにしていた場合は、頃合いをみてエサをチェンジ。ただ、よく見るとしっかりエサだけが食べられていることもしばしば。初心者相手には、やはり魚の方が何枚も上手のようです。
最初の一匹が釣れたのはビギナーズラックだったのか、待てども2匹目はなかなか釣れず20分くらいしてからようやくゲット。その後も確実に竿が震えて手応えを感じたので、リールを巻き上げても魚が食いついていなかったり、海面まで魚が釣り上がってきたのにあと一息のところで逃げられたり。なかなか釣れるところまではいきません。
アジなど食べられる魚が釣れることも期待しましたが、最終的に1時間弱で3匹、すべてクサフグという釣果に。
「上越は他にも近くに釣りができるスポットがあって、そちらもまた釣れる魚種が違ったりして人気ですね」と渡邉さんが言うように、上越において釣りは身近な文化のようです。
釣ったクサフグは、食べられないのでそのまま海に戻すことにしました。
また上越市海洋フィッシングセンターでは、5月・6月・9月・10月に月一回親子釣り教室も開催しています。スタッフに釣りを教えてもらいながらだと、親子ともに初心者の場合は、戸惑うことなく釣りを楽しめそうですね。
「子供が小さくて桟橋まで行くのはまだちょっと…」という時は、自然の岩場を利用した敷地内のサンビーチへ。イソギンチャクや小さいカニ、ヤドカリなどを見つけたりと磯遊びもあっという間に夢中になるアクティビティです。
このようにのんびりと釣りを楽しめる上越の海ですが、上越において海が文化として根付いているシーンは、アクティビティだけに留まりません。
年末年始になると上越のスーパーに並ぶのがサメ。正月料理として、サメの煮凝りや煮付けが作られ食卓に並び、現在も一印上越魚市場では年末のサメの競りが行事となっています。かつて上越にはサメがたくさん水揚げされていた時代があり、現在もその名残である食文化が息づいているのです。
上越の“サメ食文化”を紐解くと、江戸時代にまで遡ります。
天保4年(1833年)に行われた幕府普請方の調査によると、当時の江戸幕府は中国との貿易においてナマコ・干し鮑・フカヒレの輸出を奨励しており、直江津今町近郊ではサメを水揚げしていたという資料が残っています。当初はヒレの輸出と油の採取のために漁がおこなわれていましたが、水揚げ量が増えるにつれて地域に食用としても出回るようになったとのこと。明治時代には「年取り魚」と呼ばれ、年越しに欠かせない存在になっていったようです。
現代においては正月料理として家庭の食卓にのぼりつつ、地域の食文化として学校給食で提供されたり、新しいレシピを開発してイベントで販売するなど、新しい食文化の形が広がっています。
釣りや磯遊び、食文化をはじめ、海水浴場や水族館「うみがたり」、直江津港へ北前船が寄港し最新の情報や物資が集積していたヒストリーなど、海にまつわる多彩な文化コンテンツが揃う上越。
まずは上越市海洋フィッシングセンターへ行って、手ぶらの海釣りからその魅力に触れてみてはいかがでしょうか。
関連リンク
上越市海洋フィッシングセンター
住所:〒942-0087 新潟県上越市虫生岩戸719番地先
電話:025-544-2475
開場日(※令和4年度): 4月23日〜11月3日の土日祝日、GW、7月23日〜8月1日(夏季期間)は休まず営業
利用時間:午前9時〜午後5時
利用料金:入場料150円、貸し竿200円、釣餌(生分解性釣餌)250円(全て一般料金)
駐車場:20台(無料)
※強風時、荒天時は臨時休業することがあります。
※休場日であっても、15人以上の団体の場合は1週間前までに申込みを入れると利用することができます。