
file-44 新潟の美味しい秋の味覚(前編) ~人の流れには「必然性」がある
人の流れには「必然性」がある

難工事を経て完成したトラットリア ノラ・クチーナの外観。住宅街の路地裏にひっそりと佇んでいる。

レストラン内部。窓際の席では庭を眺めながら食事を楽しめる。

店先の通りで月6回開かれる六斉市。2kmに渡ってお店が軒を連ねている。生産者の笑顔はこちらにも元気をわけてくれる。
「壊してしまうと二度と戻らない。もったいないという思いが強かった」と語るのは、トラットリア ノラ・クチーナの経営者である山田秀行さん。築100年以上経つ老舗割烹の大広間は、土台が腐るほどに老朽化しており、建っているのが不思議なぐらいだった。設計士にも新しく作り直したほうが早い、とまで言われたという。「今でこそ古民家だが、そのときは廃墟。庭は人の背丈ほどある草がぼうぼうに生えていた」。
当初この地は更地にして駐車場にする計画があった。しかし縁あって、この場所にレストランを開くことになる。これも「めぐり合わせ」と当時を振り返る。「資金も経験もなかったので、ここしかやるところがなかった。反対意見も多かった。自分でも悪条件だと思っていた。」
昭和20-30年代、かつて割烹の大広間だったこの場所では、年間200組ほどの結婚式がとり行われていた。時代の流れとともに、そこで結婚式をする人は少なくなっていったが、周辺にはお寺があり、月6回開かれるという六斉市(葛塚市)には一日3,000人もの人々が訪れる。ここに「人の集まる必然性」があるのではないか。山田さんは迷った末にここでの開店に踏み切ることにした。しかも新築するのではなく、割烹だった古民家を再利用するという選択肢を取った。費用も倍以上かかる難工事を経て、2006年10月、お店をオープンさせるに至る。
ひとたび開店させると、平日でも150人、土日には200人超のお客さんが訪れる人気レストランになった。料理はもちろんのこと、地産地消、古民家、わかりにくい路地裏、豊栄に1軒しかないイタリアンレストランであることなど、そこの土地にあるからこそ「人に教えたくなる要素」を実はたくさん兼ね備えていたのである。
この界隈に250年も続く市場が開かれていたことも、山田さんが大切にしたい「地産地消」を展開するうえで大きな要因となった。現在では、大型スーパーが充実し、たとえ市場がなくても買い物には困らない。しかし生産者と顔の見える関係を築き、地元の新鮮な旬の野菜を手に入れられる市場には、昔から変わらない地域の生活の営みそのものが脈々と受け継がれている。それは古民家という文化財にも息づいている。
地元の旬の野菜を古民家で味わう―その空間には「地域にあるものを地域で生かす」というコンセプトがあり、料理と同時に、その場所に積み重ねられてきた地域の人々の生活や歴史を味わうということであり、訪れる人が何倍もの魅力を感じる相乗効果を生み出している。
次ページ → 「田舎」だからこそ生かせる強み