
file-52 新潟でたどる童謡作家・歌人たちの足跡 新潟県人の手による名曲の数々
新潟県人の手による名曲の数々
ドライブで楽しむ新潟県人による名曲のメロディー

ひつじぐさはスイレンの野生種。
吉田千秋による「ひつじぐさ」のもととなったのは、イギリスの童謡「Water Lilies=スイレン。」

「夏の思い出」のメロディーロードは、「尾瀬奏(かな)でロード」と名付けられている。
加藤登紀子が歌い、人気曲となった「琵琶湖周航(しゅうこう)の歌」。長い間、作曲者の詳細が不明のまま歌われてきたが、その原曲を作曲したのは、旧新津市(現新潟市)出身の吉田千秋(よしだちあき)だった。千秋は、『大日本地名辞書』の著者として知られる吉田東伍の二男。言語、音楽、動植物学に通じ、素晴らしい感性を発揮しながらも若くして亡くなった才人だ。その千秋がイギリスの童謡を翻訳し、自ら作曲したメロディーをつけた曲が「ひつじぐさ」。この旋律が、後に「琵琶湖周航の歌」のメロディーとして使われたのである。
琵琶湖大橋には、車が走行すると、「琵琶湖周航の歌」の旋律が流れるメロディーロードが設置されている。路面に刻んだ溝が車両のタイヤと接触して生じる走行音がメロディーになって聞こえる仕組みだ。遠く離れた琵琶湖で、新潟県人が作曲したメロディーを聴くことができるとは、不思議な感動がある。
新潟県内にあるメロディーロードと言えば、尾瀬への新潟県側からの玄関口・魚沼市にある「奥只見シルバーライン」の入口。ゲート前のカーブを曲がる際に、「夏の思い出」のメロディーが聞こえるようになっている。この「夏の思い出」を作詞したのは、上越市高田出身の詩人・江間章子(えましょうこ)。さわやかな初夏の尾瀬の空気を思い起こさせる名曲のメロディーを聴きながら尾瀬に入っていくというのは、なかなか素敵な演出だ。
「春よ来い」のみいちゃんは雪国の子

糸魚川はヒスイの町。1995 年に発行された記念切手には、御風と「春よ来い」の歌詞がヒスイの勾玉(まがたま)に重ねられている。
糸魚川市のフォッサマグナミュージアム入口に、糸魚川市出身の相馬御風(そうまぎょふう)の作詞による童謡「春よ来い」の歌碑がある。明治35(1902)年に早稲田大学に入学した御風は、同期に新潟市出身の歌人・会津八一(あいづやいち)、1年先輩に上越市出身の童話作家・小川未明(おがわみめい)がいるという環境で文学活動に参加、卒業後は『早稲田文学』をリードする論評家となり、作詞では母校早稲田大学校歌を始め、歌謡・童謡など多数の作品を残している。
「春よ来い」が発表されたのは大正12(1923) 年。その頃の御風は東京を離れ、故郷糸魚川に戻っていた。歌の中に登場する「みいちゃん」は歩きはじめの幼い女の子。御風もちょうど同じ年頃の娘をもったところであり、「早く春が来ないかな」と外を歩きたくてうずうずしている「みいちゃん」は、雪国・糸魚川に暮らす御風の娘がモデルだと言われている。「春がもうすぐ来る」という、雪国特有の雪解け前のはやる気持ちとこれから来る春への期待感が、幼い女の子の成長に重ねられているようで、微笑ましく愛らしいこの童謡に、「新潟らしさ」を感じることもできるのだ。
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