かつての新津油田金津鉱場

file-166 国内生産量1位を誇る、石油大国新潟県(前編)

 現在、石油の国内生産量全国1位を誇る新潟県。
 石油は私たちの生活に欠かせないエネルギーですが、新潟県では古くから石油の存在が確認されており、明治時代以降に国内有数の産油県となりました。その歴史を探っていきましょう。

古代の歴史書に記された新潟の石油

 日本最古の歴史書の一つである『日本書紀』には、天智天皇7年(668)に、「越国、燃ゆる土燃ゆる水を献ず」という記述があります。「越国」とは、「こしのくに」と読み、現在の福井県から新潟県にかけての地域に当たります。「燃ゆる土」は、現在のアスファルトを指し、「燃ゆる水」は、石油を指すと考えられています。つまり、新潟県の石油が天智天皇に献上されていた可能性があり、この記述が国内の石油に関する最も古い記録です。

 当時、石油は「臭い水」という意味の「くそうず」と呼ばれていました。
 現在でも県内各地に「くそうず」という地名があるのは、古代から石油が産出したことを物語っています。
 また、文化8年(1811))に刊行された『北越奇談』(橘崑崙著)では、「古の七奇(いにしへのしちき)」として「燃土(もゆるつち)・燃水(もゆるみず)・白兎(しろうさぎ)・海鳴(うみなり)・胴鳴(ほらなり)・火井(かせい)・無縫塔(むほうとう)」があげられています。このように石油は奇妙で不思議なものと捉えられていた一方で、新潟県の人々は日常的に、石油を土瓶やカンテラなどに入れて火を灯し、照明などに利用していました。

近代石油産業発祥の地、出雲崎

 時代は下り、幕末の開国に伴い近代化した日本では、外国から石油ランプの輸入が始まり、全国に普及します。その影響で、石油ランプ用の石油の輸入が急増し、あわせて石油の国内生産が始まると、新潟県でも本格的な石油開発が進みました。
 石油の採掘が始まった当初は、「手掘り」という、井戸のように穴を掘り、坑夫がその穴の中で石油を採収する方法で採油していたため、わずかな量しか採取できませんでしたが、明治21年(1888)に内藤久寛らによって設立された「有限会社日本石油会社」が、明治24年(1891)、尼瀬町(現:出雲崎町尼瀬)の尼瀬油田で日本で初めて石油の「機械掘り」に成功します。これは、アメリカから輸入した綱掘式掘削機という機械を使って井戸を掘ったもので、これにより商業的な大規模生産ができるようになりました。また、この「有限会社日本石油会社」はのちに「日本石油株式会社」に改組されます。これは、現在の「ENEOS」の前身の一つとなっています。昭和41年(1966)には、尼瀬油田機械堀第1号井跡が県指定の史跡に、平成19年(2007)には尼瀬油田関連遺産が経済産業省の近代化産業遺産に認定されました。
 このように、日本の近代石油産業は出雲崎を発祥の地として動き出しました。

綱堀式石油井戸C-2号
(画像提供:出雲崎町観光協会)

日本一の産油量を誇った新津油田

 出雲崎の尼瀬油田の石油産出量が、明治27年(1894)をピークに減少すると、日本石油会社は、油田やガス田の存在が確認されていた尼瀬東部の丘陵地に目をつけ、新油田の掘削に次々と成功します。
 一方で、江戸時代から石油採油の記録の残る新津では、江戸時代から続く金津村(現:新潟市秋葉区金津)の大地主である中野貫一によって石油開発が進められます。中野貫一は明治8年(1875)に石油製造の許可を得て石油精製を始め、手掘り主体での石油掘削を行っていましたが、明治26年(1893)頃からは「上総(かずさ)掘り」と呼ばれる千葉県で生まれた井戸掘り用の掘削技術を取り入れ、機械を使った採油に成功し、明治期から大正期にかけて「石油王」と呼ばれるようになります。
 新津油田は、機械掘りの普及や大手石油会社の本格的な参入もあり、急速に産出量を伸ばし、明治時代後期から大正時代にかけて、日本一の産出量を誇りました。
 その後、石油需要の急増により安価な外国産石油が国内で流通するようになると、新津油田は徐々に衰退していき、平成8年(1996)には新津油田における全ての鉱場が閉鎖されました。
 現在でも現地に鉱場の遺構が残っており、「新津油田金津鉱場跡」として国の史跡に指定されています。

かつての新津油田金津鉱場
(画像提供:新潟市)

国指定史跡「新津油田金津鉱場跡」

 後編では、石油にまつわる祭りや関係する恩恵について紹介します。

 

掲載日:2024/3/27

 

【取材協力】
新潟県立文書館
出雲崎町産業観光課商工観光係
石油の里世界館

【参考文献】
新潟市文化スポーツ部 歴史文化課(編)『旧新津油田金津鉱場総合調査報告書』(新潟市文化スポーツ部 歴史文化課、2017年)
新潟県教育委員会編『越後のくそうず』(新潟県教育委員会、1976年)
日本石油史編集室 編『日本石油史』(日本石油、1958年)

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【出典】
“石油(原油)・天然ガス”.2023年3月31日.新潟県(2023年10月4日閲覧)
“[第27話]出るか!?宝の水・草生水 越後のオイルラッシュ”.新潟県立文書館(2023年10月4日閲覧)
“歴史に触れる”.出雲崎町観光協会(2023年10月4日閲覧)
“新津油田”2012年6月1日.新潟市秋葉区(2023年10月4日閲覧)
“石油王中野貫一” 2017年9月6日.新潟市秋葉区(2023年10月4日閲覧)

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