file-147 アニメの可能性にかけるまち、新潟市(前編)
行政と研究者のチャレンジ
新潟には、他の地域に先駆けてアニメに多角的にアプローチし、アニメの持つ力を活用しようとする人たちがいます。アニメで新潟を盛り上げたい、新潟をアニメ研究の国際的な拠点にしたい――行政と研究者それぞれの取り組みに迫ります。
行政はアニメチームを結成
平成30年(2018)に開催された「Vol.9にいがたアニメ・マンガフェスティバル(がたふぇす)」コスプレパレードの様子
経済産業省がクールジャパン戦略に乗りだしたのは平成22年(2010)、文化庁がマンガやアニメを含むコンテンツ産業を文化だと認証したのは平成27年(2015)。そうした国の動きより早く、新潟市ではマンガ・アニメを独自の文化ととらえ、まちづくりに活かすべく様々なプロジェクトを進めてきました。平成10年(1998)に「にいがたマンガ大賞」を、平成23年(2011)に「にいがたアニメ・マンガフェスティバル」を、そして、平成25年(2013)に「新潟市マンガ・アニメ情報館」をスタートさせたのは、その一例です。
「確かに、他に先駆けて動いてきたと思います」と言うのは、新潟市文化政策課マンガ・アニメチームの矢部淳也さんです。こうした動きは行政が積極的に仕掛けたことなのでしょうか。
「いえ、新潟のみなさんのマンガ愛、アニメ愛があってこそだと思います。たとえば、マンガでは赤塚不二夫、小畑健、小林まこと、高橋留美子、魔夜峰央、水島新司など、また、アニメでは近藤喜文、鶴巻和哉、長井龍雪、山賀博之など多くの著名なクリエーターが新潟出身。こうした人々の作品に親しむ中で、新潟では見るだけじゃなく、『創る』ことに興味を持つ土壌ができていったのだと思います。実際にアマチュア作家の活動が盛んで、同人誌即売会が全国でも早い時期から開かれてきました。こうした機運を土台に、マンガ・アニメという新潟らしい文化を支援して国内外に発信し、都市の活力創出につなげようとする『マンガ・アニメを活用したまちづくり構想』が生まれたのです」
新潟市サポートキャラクターの笹団五郎(左)と、花野古町(右)。現在、アニメシリーズが第四弾まで公開中
平成24年(2012)からの第一期は、サポートキャラクター「花野古町・笹団五郎」によるPR、新潟ゆかりのクリエーターの紹介・作品展示・アニメ制作体験ができる「新潟市マンガ・アニメ情報館」を軸に、『マンガ・アニメでにぎわう新潟』のイメージを発信。平成29年(2017)からの第2期では、教育機関や企業と連携し、クリエーターの育成・雇用を推進しています。「クリエーターが働ける場を新潟市に作り、将来的にはアニメを地場産業として確立できたら」と、矢部さんが目標を語ります。
大学にアニメ研究の拠点誕生
石田美紀教授(左)と、キム・ジュニアン准教授(右)
貴重な中間素材の一部を拝見。「アニメの画面からは読み取れない、制作者の意図に気づいた時は嬉しくなりますね」/石田先生
保存されている作品の素材は、時代も制作会社も保存状態もさまざま
平成28年(2016)、新潟大学でもアニメを巡って新しい動きが始まっていました。それは、新潟大学アニメ・アーカイブ研究センターの発足です。その機能について、センターの立ち上げから関わってきた石田美紀教授とキム・ジュニアン准教授に伺いました。
「アニメ制作の過程で生まれる、絵コンテや脚本、原画、動画、背景画などの様々な資料、いわばアニメの中間素材をアーカイブ化、データベース化しています。発足のきっかけは、アニメ演出家の渡部英雄さんから膨大なアニメ中間素材を託されたこと。渡部さんが関わった『宇宙大帝ゴッドシグマ』『機動戦士Zガンダム』『銀河英雄伝説』などを含む、70年代から90年代にかけての日本アニメ史上重要な時期の生きた資料ですから、何としても残さなければとキム先生と共に思いました。ただし、その量はトラック1台分と膨大。大学に学内プロジェクトとして認めてもらい、キム先生と二人三脚でスタートすることができました」と、石田先生。
「作品名からセンターで調べなければならない未整理の状態で届いたので、大変でしたね」と、キム先生が当時を振り返ります。「でも、発見もありました。絵コンテを読んでいくと、キャラクターの動きや描かれているものにすべて意図があるのだということがわかったのです。たとえば、宇宙空間で主人公が乗る機体の動きにも意味があることなどです。また、何にインスパイアされたか、何をイメージしているかも読みとれる本当に貴重な資料なのです」
地域や業界と連携し新たな展開を
整理の終わった中間素材は封筒に入れて管理。この棚だけで100以上の作品の中間素材が保存されており、全体では約200作品の中間素材を保管している。
新潟大学アニメ・アーカイブ研究センターの目的の第一は、国内外のアニメ研究者がアクセスし、研究に活用できるようにすること。つまり、アニメ研究の国際的研究拠点としての機能を果たすことです。「アニメを特殊な国の特殊な文化ととらえるのではなく、メディア文化のひとつとしてアプローチすることが世界の潮流。ヨーロッパやアメリカ、アジアの研究者や学生にとって魅力的だと思います」と、キム先生。
第二は、大学内の教育プログラムでの活用です。「アニメ制作のプロセスを学ぶことで、学生は、表現方法はもちろん、流行や歴史、技術の進歩、働く環境、セルや絵の具などの素材の変化、発注内容や合作に見る国際関係など、幅広く学ぶことができます。将来的には、法律や経済、工学、化学など他領域につなげていきたいと思っています」と石田先生は、教育におけるアニメの可能性を探っています。
第三は、地域や映像・アニメ業界と連携し、研究の成果を社会に還元することです。山賀博之監督の『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の中間素材展示への協力、新潟市の文化芸術活動の活性化を図る「アーツカウンシル新潟」との共同事業などを通して、その目的の達成も果たしています。
アニメを楽しむ。アニメでにぎわう。アニメを研究する。そして、その魅力を広く発信し、次の世代にも伝えていく――地域×行政×大学の連携により、アニメのまち・新潟は、その個性をますます輝かせ、次の段階へ進もうとしています。
後編では、アニメーターを目指す若者たち、アニメーターとして働く人々の声から、「新潟でアニメを作ること」に迫ります。
「新潟市マンガ・アニメ情報館」常設展―アニメーションができるまで―/Ⓒ海谷敏久/Production I.G/文化庁 H23アニメミライ
掲載日:2021/9/6
■ 取材協力
矢部淳也さん/新潟市文化政策課マンガ・アニメチーム
石田美紀さん/新潟大学経済科学部 教授
キム・ジュニアンさん/新潟大学経済科学部 准教授
■ info
新潟市マンガ・アニメ情報館
新潟大学アニメ・アーカイブ研究センター
※施設の開館情報については、各施設にご確認ください。
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